イベントレポート

イベントレポート

未来を変える出会いがある。
共創ライブ #7

2023年3月12日(日)

未来に残そう!
『これからのリサイクル』を考える1時間

使い終わった家電やプラスチックなど、私たちがごみだと思っているものは、実は資源だという考え方が広まりつつあります。そんな循環経済=サーキュラーエコノミーのあり方をみんなで考察していくのが、共創ライブ #7「未来に残そう!『これからのリサイクル』を考える1時間」です。前半は、「#1か月プラなし生活」のトムさんとサーキュラーエコノミー研究家の安居昭博さんを招いたトークセッション、後半にはご参加のみなさんによるディスカッションを開催。Z世代も白熱した、イベントの模様をお届けします!

Profile

廣瀬 智之

廣瀬 智之(ひろせ ともゆき)さん ハンドルネーム:トム

Tomoshi Bito株式会社
代表取締役

報道写真家を志し、東南アジアやアフリカ、大洋州の国々を取材。発信に取り組む中で、日本の社会・政治への参加意識が低いことを知り、「情報を受け取り、行動をする人」を増やす必要があると気づく。その後、社会起業家志望に転向。ボーダレス・ジャパンの起業家採用を受け、新卒入社1年目でTomoshi Bitoを起業。2022年6月に立ち上げた新しいメディア、『RICE MEDIA』はYouTube登録数24万人超(2023年3月現在)/平均再生回数130万視聴と急成長中。

安居 昭博

安居 昭博(やすい あきひろ)さん

Circular Initiatives & Partners代表

サーキュラーエコノミー研究家/サスティナブル・ビジネスアドバイザー/映像クリエイター。50を超える関係省庁・企業・自治体に向けオランダでの視察イベント、200社以上へ講演会を開催し、サーキュラーエコノミーを紹介。複数の企業にアドバイザー・外部顧問として参画。「トニーズ・チョコロンリー (Tony's Chocolonely)」をはじめとオランダ企業の日本進出プロジェクトにも参画し、日本と欧州間でのサーキュラーエコノミー分野の橋渡し役を務める。「サステナアワード2020」にて「環境省環境経済課長賞」を受賞。著書に『サーキュラーエコノミー実践』(学芸出版社)。

中村 保博

中村 保博(なかむら やすひろ)さん

三菱電機株式会社 先端技術総合研究所
環境システム技術部 放電応用グループ

2010年、九州大学 総合理工学府 量子プロセス理工学専攻修士課程卒業後、三菱電機に入社。先端技術総合研究所 環境システム技術部に配属される。2013年、前任者から仕事を引き継ぎ、現在まで当社グループ家電プラスチックリサイクル工場(グリーンサイクルシステムズ:GCS)における静電選別工程の高度化技術開発を担当。2023年、三菱電機内に新設されたリサイクル共創センターに技術統括として兼務配属。これまで家電リサイクル事業で培ってきたプラスチックリサイクル技術の社外展開による新規事業化を目指して活動中。

トムさん:暮らしの中から必ず出るごみ。分別した後はどうなっているのでしょうか。今日は、ペットボトルや瓶、缶、家電など、様々な資源の循環に関わる日本やヨーロッパの最新事例に触れながら、「どうしたら未来に資源を残していけるのか?」を考えていきたいと思います。まず、1つ目のテーマはこちらです!

トークテーマ01 日本の資源循環の”現状”と“取組”

安居さん:ヨーロッパでは「waste=resource」、つまり「ごみは資源である」という考えが根付いています。一方、日本でもコロナ禍やウクライナ危機によってモノの調達が不安定になったことから、これまで目を向けてこなかった廃棄物の価値が注目されつつあるようです。

トムさん:日本はかなりのwasteを出していますが、これからはそれが武器になるかもしれないわけですね。

安居さん:もともと日本は資源がない国といわれ、実際に石油や石炭、レアメタルなどを海外から輸入してものづくりをしてきました。そうして作られ、捨てられた工業製品の中には有用な資源も含まれています。これを「都市鉱山」と呼び、そこから資源を発掘しようという動きも始まっています。この仕組みが整えば、日本は一気に資源大国になるポテンシャルを秘めているのです。

トムさん:まるで宝探しみたいですね。この「都市鉱山」の視点から、安居さんが取り組んでいる事例を教えてください。

安居さん:一つは、京都で実践しているロス食材を使ったお菓子作りです。梅酒の梅の実や生八ッ橋、酒かす、おから、レモンの皮などを活用した「京シュトレン」を地元の方と一緒に開発し、市内3ヶ所の福祉作業所で製造しています。オンラインや市内小売店でも販売し、とても好評をいただいています。

トムさん:シュトレンは、ドイツの伝統的なクリスマス菓子パン。かつてドイツ、オランダに在住し、現在は京都で暮らす安居さんならではの発想です。

安居さん:また、熊本県の黒川温泉ではコンポスト事業を行っています。30の温泉旅館から出る落ち葉や生ごみを堆肥化し、地元の農家さんに活用していただく試みです。この完熟堆肥で育てたおいしい野菜は、旅館でお客さんにも提供されています。
これを発展させたのが、昨年の京都音楽博覧会で実施した「資源が“くるり”プロジェクト」。フードエリアで出る食材の使い残しや食べ残しを使って完熟堆肥を作り、それを公園樹木の肥料として還元するというものです。今では、周辺の飲食店や商店街を巻き込んだ地域プロジェクトとして引き継がれています。

トムさん:アメリカのバーモンド州やカリフォルニア州では、使い捨てプラスチック容器の使用禁止に加えて、生ごみの堆肥化が義務づけられるなど、もはや生ごみも資源という流れが来ています。
一方、プラスチックに関しては、僕も「#1か月プラなし生活」をやってみた結果、使い捨てプラを完全になくすのはかなりむずかしいと実感。うまくつきあっていくためには、使う量を減らすだけでなく、リサイクルしていくことも重要だと思い至りました。

中村さん:おっしゃる通りです。日本ではコンビニのレジ袋が有料になったり、紙のストローが登場したりと脱プラスチックが推進されていますが、それでもプラスチックの生産量は増え続けているのが現状。2030年には、2020年(年間4億トン)比で40%増加すると予測されています。軽くて安く、成形もしやすいプラスチックは、ものづくりに必要不可欠な素材だからです。

トムさん:でも適切に処理されないと、地球温暖化や生態系破壊を引き起こすという大きな問題も。リサイクルは、その解決策の一つとなります。

中村さん:現在、世界で廃棄される年間2億5000万トンものプラスチックのうち、リサイクルされているのは、わずか20%未満。このプラスチックのリサイクル率を上げていくことが、社会課題の解決、ひいてはサーキュラーエコノミーの実現につながっていくと考えています。

トムさん:三菱電機さんでは、20年以上前からプラスチックリサイクルに取り組んでいます。その技術をご紹介いただけますか。

中村さん:現在、世界で廃棄される年間2億5000万トンものプラスチックのうち、リサイクルされているのは、わずか20%未満。このプラスチックのリサイクル率を上げていくことが、社会課題の解決、ひいてはサーキュラーエコノミーの実現につながっていくと考えています。

トムさん:三菱電機さんでは、20年以上前からプラスチックリサイクルに取り組んでいます。その技術をご紹介いただけますか。

中村さん:三菱電機のグループ会社であるグリーンサイクルシステムズ(GCS)では、回収されたテレビ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機などの家電を解体・破砕しています。ここで出てきたプラスチックの混合破砕片を様々な選別工程にかけることで、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)やPS(ポリスチレン)、PP(ポリプロピレン)などの素材別に分解し、新しい家電に再利用する事業を行っています。

トムさん:実はこのGCSさん、僕も取材させていただいたんですが、こういう方々が裏で支えてくださっているからリサイクルが進むんだと感動したのを覚えています。よければ、YouTubeで動画をチェックしてみてください!

トークテーマ02 欧州のサーキュラーエコノミー/資源循環 最新事例

トムさん:日本の取り組みに続き、今度はヨーロッパの事例も見ていきたいと思います。まずはサーキュラーエコノミーの取り組みについて、安居さんはどう捉えていますか。

安居さん:欧州委員会が「サーキュラーエコノミーパッケージ(CEP)」を出したのが2015年。以降、環境+経済政策としてポジティブな取り組みを進めています。これまでのリサイクルシステムが対症療法的なアプローチだったのに対し、廃棄を出さずに資源循環を持続できるような予防医療の視点を持っているのがCEPの特徴。これに則った新しいビジネスも続々誕生しています。

トムさん:例えば、どんなビジネスがありますか。

安居さん:イチオシは、今日僕が履いている、MUD Jeans(マッド・ジーンズ)。これはオランダのサブスクリプション型ブランドで、履きつぶした後に返却すると、また線維に戻して新しいジーンズとして還元されるんです。資源回収できる仕組みをビジネスモデルに落とし込んで、さらに素材やデザインも進化させているところに、大きなインスピレーションを受けました。

トムさん:サブスクジーンズ、面白いですね。新たな資源を消費せず、今あるものを長く持たせることによって、環境にも経済にもいい影響を与えていく。まさにオランダらしい発想だと思います。

安居さん:グローバルにサーキュラーエコノミービジネスを展開している企業としては、フィリップスも有名です。同社では医療器具や照明器具をリースすることによって、製品やパーツを循環させるシステムを構築。回収を前提としたデザインや設計になっているので、修理や分解もしやすく、次のものづくりにも無駄なく活かせる。CTやMRIのような高額な医療機器も、循環を繰り返すことでより多くの医療機関で使えるようになっています。環境への負荷を抑えつつ、同時に経済効果をももたらすサーキュラーデザインの好例といえるでしょう。

中村さん:リースには、リペアやメンテナンスをしながら製品寿命を延ばせる効果もありますが、リサイクルとの相性も非常にいい。自社で作っている製品であれば、素材も設計もわかっているので、資源循環もしやすくなります。家電プラスチックに関しても、これまで以上に高効率で高純度なリサイクル材を提供できる仕組みが考えられそうですね。

トークテーマ03 資源を未来に残すために必要なコト

トムさん:いくつもの素晴らしい事例をご紹介いただきましたが、これをさらに広げていくにはコストや汎用性などの課題もあります。今後、資源を未来に残すために、消費者や企業、社会に必要なことって何でしょうか。

安居さん:サーキュラーエコノミーがビジネスチャンスの一つであることは間違いないのですが、かといって実施したらすぐ儲かるというものでもありません。短期的な成果は得られなくても、長期に継続していくことで安定的な利益が得られるところに価値があると思っています。
さらに、経済合理性では評価できない価値もあります。例えば、コンポストを始めてみたら、温泉旅館の方々との農家さんがつながったり、地域に新しいコミュニティが生まれたりと、必ず何かポジティブなことが起こるんです。
大切なのは、発想の転換です。環境配慮や廃棄物対策でよく使われる言葉に3R(リデュース、リユース、リサイクル)がありますが、最近ではそれが7R、11Rと増えているのをご存知でしょうか。その中で僕が注目するのは、「Rethink」。自分たちのビジネスや地域課題をもう一度見直し、これまでとは違う発想で新しいアクションを起こしていく。そんなRethinkの姿勢が、これからは求められてくるのだと思います。

中村さん:昨年4月に施行されたプラスチック資源循環促進法により、企業におけるプラスチックリサイクルのニーズは格段に高まっています。と同時に、当社のプラスチック高度選別技術も大きく注目されるようになりました。
三菱電機の選別装置は、世界トップクラスの性能だと自負しています。ただし、使いこなすにはコツが要ります。私たちが長年磨き上げてきたオペレーションノウハウと組み合わせることで、高度な選別を実現しているのです。でも、それでは社会や世界にこの技術を広めることはできません。
そこで、そのオペレーションノウハウをAIに学習させることで、誰もが使える装置を作っていく。そうすることで、世界のプラスチックリサイクル率をどんどん拡大していきたいと考えています。

トムさん:企業の取り組みが世界を変えていく、とてもワクワクするお話ですね。最後に僕からは、消費者視点でのお話をさせていただきます。僕たちに必要なのは、自分が出したごみがその先どうなっていくのかに関心を持つこと。それが、ごみを減らす意識を生み、何かを買うときのよりよい選択につながっていくのだと思います。
そのためにも、企業は選択肢を増やす努力をしていく必要もあるでしょう。消費者が声を上げていけば、企業も必ず動きます。消費者と企業、両輪で進めていくことが、社会に変革をもたらすのだと僕は信じています。その結果、数年後のプラなし生活が滅茶苦茶イージーゲームになることを、心から願っています!