トークテーマ01
AIと恋愛関係に?未来の恋愛の仕方とは

さまざまな調査結果や会場の方の投票データを見ながらZ世代の恋愛傾向への理解を進めたあとは、AIが人間と恋愛関係を持つことについて、映画や漫画などエンタメの世界で活躍される山田先生と小泉監督から、ご自身の作品表現を含めてお話を伺いました。
『AIの遺電子』でテクノロジーと人間をテーマに描く山田先生は、AIと人間が恋愛関係になることについて将来的に普通に起こりうると言い、 「ニュースで知った話ですが、中国では結婚ができずアプリで疑似恋愛する人が話題に上るそうです。日本でリアリティを感じる人は少数派かもしれませんが、AIはもう実際に心や感情を持つと思わせることが出来るから、人間側の気持ちのスイッチが入ってもおかしくないと思うんです。」(山田さん)
AIではなく人間がモノに感情を寄せてしまうエピソードで盛り上がるのは小泉監督と牛窪さん。AI搭載のお掃除ロボに名前を付けて故障の修理を動物病院に連れていったペットのように心配する人や、お掃除ロボのために掃除したり通りやすく家を改造した人までいらっしゃるとか。「掃除機よりもっと話すAIだと簡単に恋愛感情を持ちそうです。」 (小泉さん)
AIと人間の恋愛が描かれた映画作品、小泉監督のオススメは、ホアキン・フェニックス主演の『her/世界でひとつの彼女』と、『エクス・マキナ』というサスペンス映画の2本を紹介いただきました。また、ご自身が映画的な表現を通じて、AIと人間の恋愛をどう捉えていくのか伺いました。「METoAに展示している『アイするということ』、ヒロインがAIのエージェントが選んだ最適な相手ではなくAI自身に恋をする話です。この作品では彼女がAIとの恋のきっかけやその是非とか顛末を描いていますが、AIが当たり前になれば、ロマンスが存在しないことも、出会いが奇跡的な出来事でもなくなるし、葛藤が起きなくなってしまう。そんな状況をどうドラマにするか今から戦々恐々としています。」(小泉さん)
小泉監督が危惧するAIとの恋愛が当たり前な状況を先取りしているのが、ECでの買い物だと牛窪さんは類似点を指摘します。「ECサイトではオススメがレコメンドされることがありますが、意外性がないとつまらなく感じる人も多いはず。そこで最近は『セレンディピティ』という、偶然の出会いを感じさせる仕掛けも導入され始めました。人同士のマッチングでも、今後は偶然の出会いに見せかけるAIが出てくるはずです。」 (牛窪さん)
司会の高木さんも出会いの演出には興味津々。「運命だって信じていたら実は必然の出会いかもしれないってことですか。計画されてたみたいな。」 (高木さん)
全てAIがコントロールしていることに気づかず自身で達成したと思わされている世界を描いたことがあるとおっしゃる山田先生も加わって、作品の表現とAIの感情について人間の感じ方や受け入れるか、さまざまな意見が交わされました。
トークテーマ02
「恋愛において、AIがどんなカタチで関わってほしい?」
私たちの人間関係や恋愛にAI技術がどのような影響を与えるのか、実際の技術や未来予測を踏まえて話す前に、AIがどんな形で恋愛に関わってほしいか、その影響についても伺いました。
小泉監督はAIが恋愛に関わるタイミングに興味があるそうで、「『恋は盲目』というくらい冷静な判断が難しいのが恋愛だから、気がついたら相手に支配されていたり支配したりと、望まない形になることもある。そんな恋愛をAIが「良くない」と判断したデータを提示することで、終わらせるタイミングや方法のアドバイスがもらえるといいかもしれません。」(小泉さん)
山田先生は話題の退職代行を例に挙げ、AIによる別れ話代行サービスが出来れば恋愛のストレスが軽減されると言い、続けてZ世代の恋愛傾向について分析します。「恋愛が面倒とかタイパ悪いって、快楽のマイクロ化が進んだ結果じゃないですか。スマホ見ていたら小さな快楽が3秒ごとに断続的にあるんです。だから大きなストレスと快楽が交互にある恋愛に対応できなくなっている。AIにはそこを乗り越えるサポートをしながら鍛えてほしい。」
恋愛にAIがどう関わって欲しいかを伺った上で、AIが人間の感情を理解して適切な反応を示す可能性について、三菱電機の斉藤さんは技術的な視点でのコメントと前置いて話します。「現状のAIは、感情を理解して自身の感情を持った上で行動するのではなく、感情があるフリをできる状態だと考えています。AIが感情を持つフリが上手な理由は、人間が積み重ねたデータを人間のふるまいごと学習し『この表情の人間は落ち込んでいる』と判断、『励ますという行動』を上手に実行しているだけだからです。」(斉藤さん)
AIが人間の感情を理解しているように感じてしまう仕組みを説明しながら、斉藤さんは正解じゃなくても、親身になって考えて答えを出している人間の方がいいと言い、AI技術の発展に伴う懸念についても話します。
斉藤さんがひとつ目に挙げたのはディープフェイク。映像では人間とAIの区別が難しく、マッチングアプリといったデジタルと組み合わせると、技術的にはディープフェイクで作られた映像や画像を見せて相手をAIと気付かれずやり取りさせることが可能なのだとか。
MCの高木さんは、好きだと思ってやり取りしていた人がAIだって分かったときの感情をどうしたらいいかと問いかけ、牛窪さんも「もしパートナーの浮気相手がAIだったら、ジェラシーの感じ方が変わるのかもしれません。」と続け、AIに対して人間が持つ感情の変化を示唆されました。

次はハイリスクAIに含まれる問題です。言葉とか表情とか表層での感情認識は既に実現していますが、脳波とか心拍といった生体信号の情報を組み合わせられるようになることで、自分が言わずに思っていることがバレてしまうリスクが高まります。このハイリスクAIは法律的にも規制される動きがあり、注意したい問題だと斉藤さん。
また、AI技術の進化に伴う倫理的な問題について、三菱電機グループでも、AIの倫理的な活用に関するAI倫理ポリシーを定めており、技術の進化と社会的な影響のバランスを取るための取り組みを進めています。
斉藤さんは自身が携わるプロジェクト「AI SPEC」について、AI倫理ポリシーのようにトップダウンで降りてくるものでは無く、AIを作る、あるいは使う側の我々一人一人がそれぞれ自分の立場で考え、議論する場を提供するプロジェクトだと言います。METoAで展示されている『幻燈モラリティ』も「AI SPEC」で考えた作品で、アノテーションをテーマにしているそうです。「AIは最初から何でも知っているわけではありません。我々人間が、正解ラベルを与えてあげる必要があります。このラベル付け作業をアノテーションと呼びます。この作品では、道行く人から不審者を検出するために、例えば何か拾った行動を不審行動としてアノテーションしています。この世界では価値観矯正プログラムで正しい価値観を学んだ人だけ高度なアノテーションが可能になる。だけど「正しい価値観」って何でしょうか。人や状況、時代や国によっても違います。そんなところを議論してほしくて作った作品です。展示に新しく加わった『恋愛アノテーション』も恋愛観の違いを見える化して、自分が多数派か少数派か分かります。多数派だからいいわけじゃなくて議論のきっかけになればと考えています。」(斉藤さん)
質問コーナー
トークセッションでは、参加者の皆さんからの質問コーナーも設けられました。

[全員に質問]AIがご自身の恋愛アドバイザーになったら、どんなアドバイスを期待しますか。
(山田さん)「こういうことを言ったら、相手が傷つくよ」とか、地雷を踏んでるつもりはない人に限ってってケースがあるので教えてもらえたらありがたいです。
(小泉さん)“察する” をサポートしていただきたい、女性のこの態度はこの言葉を待ってるとか、プレゼントしたいときに「今欲しいのはこれ」って知りたい。すっごい外すんで。
(斉藤さん)私も小泉監督と同じなんですが、アドバイスを鵜呑みにして実行するだけになるは危険だと思い直しました。恋愛っていろいろ試行錯誤する中で絆が生まれてくるかなと。
(牛窪さん)交際や結婚の初めはお互いがよくわかってないから、自転車の補助輪みたいなサポートが欲しいかな。補助輪が外せなくなりそうな気もしますが
[小泉監督に質問]映像制作で感情のないAIにさも感情があるかのように演技させるとしたら、どんな演出をしますか。
まず言ってる言葉と求めていることは違うんだと示したいかな。次にこれは細かいテクニックですが、ちょっと噛んだり、「うーん」「えーっと」と余白を入れたり、声が上ずったりを考えます。あえてちょっと外すことで感情があるように見せられると思います。
[斉藤さんに質問]もし今から恋愛するとしたら、AIを活用しますか。
AIの提案をただ実行するだけは嫌だし、業務効率化でAIを使うので…恋愛に効率を求めるべきか悩みます。活用するなら作戦会議をいろいろなシチュエーションの対策を教えてもらう感じになるんじゃないかな。リアルなやり取りはまだ人間だから、どうせボロ出るなら頑張ってみようとも思います。
[牛窪さんに質問]AIとの恋愛や、恋愛のサポートが一般的になれば恋愛の優先度は上がるでしょうか。
恋愛の始まりだけではなく終わりのサポートがあると安心できると思うんですよ。例えば、別れた後に画像ばらまかれたときの解決法といったサポートがあれば、もうちょっと楽しめるかもしれませんね。
[全員に質問]アプリで出会うことは運命の出会いだと思いますか
(小泉さん)どんな出会い方であれ、出会ってすごく気が合って関係を進めたいなと思うような相手に巡り合えることは奇跡的なことだと思います。
(牛窪さん)アプリの多くは、いつも夕方5時ぐらいにアクセスする人には同じ時間帯にアクセスする人を上位表示する仕組みを取り入れていますけど、そうしたタイミングの合致も充分運命だと思います。
(山田さん)お見合いが自動化されているだけな気がするので、運命だと思って問題ないと思います。
(斉藤さん)出会い方が時代によって変わったというだけで、運命の出会いですよね。
このトークセッションに参加してくださった方々がAIとその未来について考えるきっかけの一つになれば幸いです。ご参加いただいたみなさまには、あらためて厚くお礼を申し上げます。