イベントレポート

イベントレポート

共創ライブ #10
つなげ、イノベーション。~AI×モノづくりの未来~

2024年3月2日(土)

METoA Ginza 出張イベント第3弾
名古屋で共創ライブを開催しました!

日常生活やビジネスでも身近になりつつある、AI。今後のさらなる社会実装に向けて欠かせないのが、ユーザーインターフェースとなるモノ(ハード)とAIを「つなぐ」こと。そして、AIの信頼性と安全性を担保する「理論の見える化」と「新しい倫理」の構築です。そこで共創ライブ#10では、「つなげ、イノベーション。~AI×モノづくりの未来~」をテーマに、これからのAIのあり方を専門家たちと考察。日本のモノづくりの一大拠点である名古屋を舞台に、未来を担う学生さんたちに向けた熱いディスカッションが繰り広げられました。

第1部 共創ライブ#10
つなげ、イノベーション。〜AI×モノづくりの未来~

石黒 浩

石黒 浩(いしぐろ ひろし)さん

大阪大学大学院 基礎工学研究科 教授/栄誉教授
国際電気通信基礎技術研究所(ATR)石黒浩特別研究所 客員所長。
AVITA株式会社代表取締役

1963年生まれ。ロボット工学者。アンドロイド研究の第一人者としてロボットの研究開発に従事。文部科学大臣表彰、大阪文化賞、立石賞などを受賞。『ロボットと人間 人とは何か』(岩波新書)、『アバターと共生する未来社会』(集英社)など著書多数。

毬山 利貞

毬山 利貞(まりやま としさだ)さん

三菱電機株式会社 情報技術総合研究所
知能情報処理技術部
博士(理学)

1975年生まれ。学生時代に脳科学を学び、博士(理学)を修了。三菱電機 情報技術総合研究所にてAI分野の研究・開発を担当。主な開発テーマは空調機器・産業用ロボット・FA加工機・社会インフラ設備などのAIによる最適制御、AIによる時系列データ予測など。

金谷 亜美

金谷 亜美(かなや あみ)さん

NewsPicks for Kids編集長/NewsPicks Studios

取材内容や肩書は収録日の2024年3月2日時点のものです。

トークテーマ01
AI時代、モノづくりはどう進化する?

モノづくりの現場で、生産性向上に貢献するAIやロボット。とりわけAIは、スマートフォンや家電などにも搭載され、暮らしの中でも身近な存在となっています。AIが日常にまで浸透しつつあるこの現状を、ロボット工学者の石黒浩さんは「ものすごく面白い時代」と表現します。

「人間というのは、技術で能力を拡張する生きものです。現に私たちは、スマホやパソコンのおかげで、豊かな生活を実現してきました。今後のAIやロボットの発展により、その恩恵はますます増していくでしょう。AIやロボットは、いわば人間の一部。このようなヒトの進化を目の当たりにできるのは、とても幸運なことだと思います」(石黒さん)

その言葉には、三菱電機 情報技術総合研究所の毬山利貞さんも共感。「ただし、AIの進化スピードが予想以上に加速しているため、私たち自身もしっかりと将来を見据え、より責任感をもって開発をしていかなければなりません」と技術者の心得を語ります。

三菱電機では、「Maisart(マイサート)」と呼ばれるAI技術ブランドを展開し、機器に搭載するAIのコンパクト化や学習効率化、分析スピードの高速化などの技術開発を推進しています。なかでも毬山さんは、産業用ロボットや空調機器などを動かすエッジAI(デバイス内でAI処理を行う技術)に特化した研究を行っているそうです。

「エッジデバイスに搭載するAIには、限られた計算資源でも高精度に動く『正確性』が求められます。例えば、ロボットアームなどが不確実な動きをしてしまうと、生産効率が落ち、場合によっては人を傷つけてしまうリスクもあるからです。また、想定外の入力データに対してもうまく推論できる『ロバスト性』の向上も、重要な研究課題となっています」(毬山さん)

一方で、AIには、思考プロセスが外から見えないという「ブラックボックス問題」もあります。そこで三菱電機では、AIの振る舞いが理解しやすく、安心できるための取り組みとして、制御の根拠を明示する技術を開発。すでにビル用マルチエアコンなどへの搭載が進められています。

「これからのAIに必要なのは、人との協調性。ヒューマンインタラクションを向上するうえでも、ブラックボックスを見える化する『説明性』は、大きなポイントになってくるでしょう」(毬山さん)

協調性を高めるためには、「人間がAIに合わせていくことも重要」だと石黒さんは語ります。「AIは完璧ではありません。でもうまく使うことで、生産効率は格段に上がります。スマートフォンがいい例です。AIも同じで、手を入れながら共存していくことが大事。日本にはもともとAIやロボットを友だちとして受け入れる文化があり、さらにモノづくりの強みもあるため、AIのパフォーマンスを十分に引き出せる余地があると思っています」(石黒さん)

トークテーマ02
「つながる」時代に、イノベーションを起こすには?

あらゆるものがデータを介してつながる時代、日本のモノづくりの強みはどう生かされていくのでしょうか。そのカギは、「オリジナリティ」にこそある、と石黒さんは説きます。「日本は、大規模言語モデルの開発では後れをとっていますが、AIの上に積み上げるモノづくりには定評があります。それが優れたオリジナル技術であれば、いずれ世界の標準となっていく可能性は高いと見ています」(石黒さん)

例えば柔らかいケーブルをコネクタに刺せるようにするには色々と工夫必要です。人間にとって苦では無い作業が、ロボットにとって難しいということは製造現場において多く残っています。

「ロボットの複雑な動きをしっかりと作り上げていくようなところは、日本がもっとも得意とする領域。それを高い省エネ性能で実現する技術もあります。こうした特長を強く押し出すことで、他国にマネのできない付加価値を創出していけると考えています」と毬山さん。そのうえで、「イノベーションを起こしていくには、知恵と技術の結集が不可欠」だとつけ加えます。

「これまで培ってきたモノづくりや制御の技術とAIを組み合わせる、あるいはそれぞれの分野の専門家たちが知恵を出し合う。そうしていろんな人たちの技術やアイデアを複合させていくことが、強いイノベーションを生み出す源泉になると確信しています」(毬山さん)

その姿勢を表すのが、三菱電機グループの目指す「循環型デジタル・エンジニアリング企業」です。これは、お客様から得たデータをデジタル空間に集結・分析すると共に、グループ内が強くつながり、知恵を出し合うことで新たな価値を生み出し、社会課題解決に貢献する企業を意味します。

「文系・理系の域を超え、多彩な感性をもつ人たちと共創しながら、新しいモノづくりをしていく。そうでなければ、いいモノはつくれないし、社会課題の解決もできないと思っています」(毬山さん)

その言葉に、石黒さんも大きくうなずきます。「うちの研究室にも、脳科学者からロボット設計者までさまざまな人がいます。多様な知見の蓄積があるからこそ、新しい発見も生まれるのです」

そんな石黒さんが示す、人間とAIの新しい関わり方の一つが「アバター」です。「アバター技術を活用すれば、障がいがあっても遠隔地にいても、誰もが好きな場所で働くことができます。例えば、ブラジルに住む人が日本のコンビニで深夜勤務したり、一人が同時に複数箇所で働くことだって可能になります」(石黒さん)

石黒さんの開発したアバターは、すでに一部のコンビニで活用され、人手不足や深夜の就労対策といった課題解決に役立てられています。これも、つながる時代のイノベーションの成果といえるでしょう。

トークテーマ03
「つながる」時代に、日本はルールメーカーになれるか?

競争力の高い製品やサービスを世界に提供する一方、日本はISOの標準化活動においても重要な役割を果たしています。2024年1月15日に発行された、AIマネジメントシステムの国際標準規格「ISO/IEC 42001」の開発には、日本から多くの専門家が参加。三菱電機もその一員です。

「三菱電機グループでは、21年から「AI倫理ポリシー」を策定し、安心・安全を考慮したAIの開発・利活用に努めています。その根幹にあるのは、人の幸せのためにAIを使う、という発想です」と毬山さん。

AIの社会実装に伴い、今後ますます重視されてくるのが、この倫理問題です。石黒さんは、「これからの時代は、AIによる社会的影響を考慮しながら新しい技術を積み重ねると同時に、リスクを排除するためのルールや技術も開発していく必要があります」と提言。その一方で、「AIの発展を阻害するような決めごとには意味がない」とも指摘します。

「どういう危険性があるかを議論することが重要であって、『怖いからAIの開発をやめよう』というのは本末転倒。これではAIで解決可能な問題も解決できなくなります」(石黒さん)

AIやアバターが社会に普及していけば、今まで気づかなかった課題もたくさん出てくるでしょう。そこで立ち止まるのではなく、「課題を解決するテクノロジーを開発することにこそ、技術革新の面白さがある」と、お二人は声を揃えます。

そんなお二人に、「これからの社会を担う人材」について伺ってみました。新社会人を目指す学生さんやイノベーターを志す方は、ぜひ参考にしてみてください。

「これからの人材に求められるのは、変化のスピードに対応できるキャッチアップ力と新しいことを吸収できる柔軟性、そして確固たる自分のコアをもっている方。これらの強みを掛け合わせ、さらに周りの人たちと知恵を出し合うことで、どんどん新しいイノベーションを起こしていってほしいですね」(毬山さん)

「大切なのは、何ごとに対しても深い疑問をもつこと。そして質問する力をつけること。ChatGPTなどの生成AIを使うにしても、訊き方がわからなければ、欲しい答えに辿り着くことはできません。突き詰めればそれは、哲学的思考ともいえます。『人間は何のために生きているのか』という哲学的問答は、人や社会を知ることにつながり、ビジネスに役立つだけでなく、人生そのものを豊かにします。だからみなさん、哲学者になりましょう!」(石黒さん)