イベントレポート

イベントレポート

未来を変える出会いがある。​
共創ライブ #6

2023年2月22日(水)

素材再生×INNOVATION
リサイクル新技術でサステナブル立国を目指せ

世間では「脱プラスチック」が叫ばれ、レジ袋の有料化や紙ストローの活用なども進んでいます。それでも一向になくならないのが、海洋プラスチックなどのごみ問題。プラスチックの消費量も年々増加しています。そこで重要となってくるのが、プラスチックリサイクルです。日本が誇る高精度なリサイクル技術は、いまや世界も注目するイノベーション。その最前線で活躍する多彩なゲストたちが、サーキュラーエコノミーの可能性について議論しました。

Profile

井関 康人

井関 康人(いせき やすと)さん

三菱電機株式会社
営業本部 事業推進部 リサイクル共創センター センター長

1989年三菱電機入社。96年、社内公募により本社直轄の環境事業プロジェクトに参画。99年より新設の家電リサイクル事業会社へ出向し、金属からプラスチックまで幅広い選別技術を開発、事業化。2017年、三菱電機の家電リサイクル事業を統括するリサイクルシステムグループのマネージャーに就任。家電メーカー共同出資の家電リサイクル管理会社への出向を経て、2023年より現職。家電リサイクル事業で長年培った選別技術を活かし、様々な新規事業の創出に取り組む。

南部 博美

南部 博美(なんぶ ひろみ)さん

花王株式会社 研究開発部門 リサイクル科学研究センター センター長

1988年花王入社。素材開発研究所にて、紙おむつに使用する高吸水性ポリマー、皮膚にサラサラ感を付与する“さらさらパウダー”など、ポリマー材料の開発に従事。2011年より知的財産センターにて米国特許を担当、ワシントンに駐在。14年にマテリアルサイエンス研究所室長、19年に同研究所副所長、20年より現職。リサイクルビジネスモデル創出プロジェクトのRD担当プロジェクトリーダーとして、プラスチックをはじめとする材料開発、資源循環を目指したリサイクル技術開発に尽力する。

松沢 優希

松沢 優希(まつざわ ゆき)さん

日本アイ・ビー・エム株式会社 IBMコンサルティング事業本部
ビジネス・トランスフォーメーション・サービス事業
ファイナンス・サプライチェーン・トランスフォーメーション
サステナビリティ担当 シニア・マネージング・コンサルタント

環境・サステナビリティ領域のコンサルタント。環境ソリューション企業にて、リサイクル工場の管理や新規環境ビジネス開発を経験したのち、日系コンサルティングファームへ。官公庁・自治体の政策検討に資する調査業務、リサイクル関連団体の支援や民間企業のプラスチック戦略策定支援、工場排出物の管理合理化コンサルティング等、多くのプロジェクトに従事。2023年1月より日本IBMのコンサルティング部門にて、より実行・実装に近い領域でサステナビリティ関連の支援を行う。

金谷 亜美

金谷 亜美さん

ファシリテーター
NewsPicks for Kids編集長

トークテーマ01 プラスチックにまつわる「疑問と誤解」

暮らしや社会のあらゆるところで使われている、プラスチック。しかし、その廃棄物が地球環境に与える影響は深刻であると、日本アイ・ビー・エムでサステナビリティコンサルタントを務める松沢優希さんは訴えます。

「プラスチックには、自然に分解されにくいという特性があります。例えば、ペットボトルの分解にかかる期間は450年以上。これが海に流出すると、海洋生物を傷つけ、生態系にもダメージを与えてしまいます。さらには、魚介を通じて私たちの体内にもプラスチックは取り込まれているのです」

現在、大きな問題となっている海洋プラスチックごみは、そのほとんどが陸上からの流出によるもの。排出国の上位には中国やインドネシアが挙がっていますが、「日本も無関係ではない」と松沢さんは指摘します。

理由の一つは、かつて日本が中国や東南アジアに大量の廃プラスチックを輸出していたこと。また、一人あたりのプラスチック容器包装の使用量が世界第2位という、プラスチックの大量消費国であるためです。「今、日本に求められているのは、率先して脱プラスチックに取り組み、リサイクル技術で世界をリードしていくことではないでしょうか」

材料開発、資源循環の両面からプラスチックに携わってきた、花王 リサイクル科学研究センターの南部さんは、プラスチックに関する3つの課題を挙げます。

「資源循環、脱炭素、そして海洋プラスチックごみの3点です。これらが複雑に絡み合うのが、この問題のむずかしいところ。リサイクルをすることによってCO2を排出してしまえば元も子もないし、脱炭素と資源循環がうまく回っても、海洋プラスチックはまた別の話。流出を抑えるだけでなく、すでに海洋にある1.5億トンものごみをどう回収するかという課題もあります」

さらに、自治体によってプラスチックの扱いや回収方法が異なる点も、この複雑さに輪をかけているといいます。そうした中、早い段階から課題解決に取り組んできたのが、家電業界です。日本では、2001年に家電リサイクル法が施行。それに先駆け、三菱電機は1999年から家電リサイクル工場を立ち上げ、プラスチックリサイクルに取り組んできました。そのキーパーソンとなったのが、現在同社のリサイクル共創センターを率いる井関康人さんです。

「プラスチックには様々な種類があり、リサイクル前にはそれぞれに分類する必要があります。この分離が当時の技術ではむずかしく、複数のプラスチックが混在した品位の低いものはスクラップとなっていました。そこで三菱電機では、リサイクル率を高めるためにプラスチックの選別装置を開発。その技術とノウハウをひたすら磨き続けてきたのです」と、井関さんはこの20年を振り返ります。

ちなみにその間、日本では、自国で処理できない大量のプラスチック・スクラップを中国などに輸出していました。井関さんは、当時の世相を表す言葉として「NIMBY(ニンビー)」を紹介。「これは、“Not In My Backyard(我が家の裏庭には置かないで)”の略。要するにプラスチックごみを見えなくして、この問題と向き合ってこなかったんですね」

ところが、2017年に中国が廃プラスチックの輸入を禁止。行き場を失ったことで、プラスチック問題は一気に日本の大きな社会課題となりました。一方で、三菱電機にはこの課題解決に貢献し得る、長年の技術とノウハウが蓄積されていたというわけです。

「廃プラスチックはごみではなく、資源のかたまり。海外に輸出などせず、自国で再生化を目指していたら、今見える風景は違っていたかもしれませんね」という井関さんの言葉には、登壇者も深くうなずいていました。

トークテーマ02 世界が注目する、日本のリサイクル技術

プラスチックの消費量が増え続ける中、リサイクルの重要性はますます高まっています。それに伴い、メーカー主導によるリサイクル推進も広まりつつあると、松沢さんは解説します。「動脈産業であるメーカーがリサイクルに関わることで、その精度は大きく向上します。製品の構造や素材を熟知しているメーカーであれば、リサイクルを見据えた製品開発やデザイン設計も可能だからです」

リサイクルの高度化に従い、再生材の品位が向上すれば、これまで内装材などに限られていた再生材用途も、外装デザイン面はじめ多くのパーツへと拡大していくはずです。使い終わった製品から、また同じ製品を生み出す。そんなクローズドループリサイクルの実現も不可能ではないと、松沢さんは展望します。

この意見には、南部さんも大きく同意。「メーカーの強みは、高い技術と巨大な製造インフラ。ここにリサイクルの知見を加えることによって、さらなる好循環を生み出せると確信しています」

資源循環モデルの事業開発を目的として、花王では2020年より、研究開発部門にリサイクル科学研究センターを開設。センター長である南部さんの主な仕事は、マーケティングとマッチングであるといいます。「リサイクルの継続には事業化が必要となるため、そのビジネスモデル創出のためのマーケティングを行っています。また、循環の輪を広げるにあたっては、他企業や行政、大学などの研究機関、そして生活者のみなさまを含めた様々なステークホルダーとの連携が何より大事。だからこそ、人とのマッチング、技術のマッチングに力を入れているのです」

マッチングの一例として、南部さんは三菱電機との共創を紹介。これは、花王の日用品ボトルを三菱電機のプラスチック高度選別技術で種類別に分離し、より高精度なリサイクル手法の確立を目指す共同実験のことです。この実験では、三菱電機が独自開発した「静電選別」が採用されています。

「静電選別とは、PS(ポリスチレン)とABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)の粒子をすり合わせて静電気を起こし、プラスとマイナスの電極で分離するという方法。純度や回収率が高く、多種多様なプラスチックにも対応可能です」と井関さんは解説します。「この技術を当社の家電リサイクルだけでなく、広く社会貢献に活用したいという思いから、今回花王さんとの共創をスタートさせました」

静電選別の原理

シャンプーボトルなどの日用品には、PE、PP(ポリプロピレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)など複数のプラスチック素材が含まれます。「これをすべてお客様に分別していただくのは大変です」と南部さん。「環境に配慮しつつ、生活者にもご負担をかけないリサイクルを実現するためにも、三菱電機さんの選別技術には大きな期待を寄せています。将来的には、洗剤から食品まで様々な製品に応用していきたいですね」

両社のこの取り組みは、松沢さんも高く評価しています。「リサイクル技術を横展開していくのはとても重要なこと。今回のような異業種同士の連携が進めば、資源循環の輪はさらに広がり、リサイクル技術の発展にも寄与していくでしょう」

トークテーマ03 サーキュラーエコノミーを実現するイノベーション

プラスチックリサイクルの普及・進展の鍵は、「情報の共有化」にあると、松沢さんは言います。「回収されたプラスチックの種類や収量、排出ルート、再生材用途などの情報を自社だけでなく、他社や社会とも共有することで、リサイクルはより最適化されます。現にヨーロッパでは、工場団地単位でこれを実践。様々な工場の排出物を統合し、スケールメリットを活かしたリサイクルを実現している事例もあります」

機密情報などを除き、排出物に関わる情報を可能な限りオープンにしていく。さらには、第三者が閲覧できるような情報共有プラットフォームを構築する。こうした仕組みづくりが、工場排出物の収集・運搬の効率化や再生材の相互利活用、ひいてはリサイクルシーンの拡大と高度化につながるのだと提唱します。

続いて、南部さんもリサイクルにおけるトレーサビリティの重要性を強調。「どこから排出されたプラスチックが、どこでどう選別され、何に再生されたのか。この一連の流れがデジタルで可視化されれば、誰もがより安心して資源を循環し、活用することができます」

南部さんはこれを、『プラスチックごみ×情報=資源』という公式で表現。「プラスチックをごみにするのも資源にするのも情報次第。正しい情報が共有されることで、企業や生活者の意識も変わっていくはずです。それがサーキュラーエコノミー実現の一歩になると考えています」

一方、「リサイクルだけでは、サーキュラーエコノミーは実現できません」と言うのは、井関さん。リサイクルする前に、まずは大量生産、大量消費を見直すことが大切だと訴えます。「また、リサイクルに加えて、リペア、リユース、シェアリングを徹底していくことも重要。メーカーには、製品の長寿命化も求められます。これらを総動員して、天然資源の利用と廃棄物の発生を最小限に抑えることが、目指す最終ゴールなのです」

サーキュラーエコノミーの概念図

サーキュラーエコノミーの実現に向けたアクションは、「点」から「線」へ、そして「輪」へと広がりつつあります。この取り組みを支えるのは、企業や業界の垣根を越えた共創に他なりません。今回のトークセッションでは、その一端を垣間見ることができたのではないでしょうか。