イベントレポート

イベントレポート

未来を変える出会いがある。​
共創ライブ #5

2022年11月29日(火)

「エネルギーのDAO」は実現するか?
エネルギー×イノベーションで拓く日本の未来

原油高、円安、自然災害などにより、ますます高まるエネルギーへの不安。特に資源の多くを海外からの輸入に頼る日本では、自国での安定的なエネルギー確保が急務の課題となっています。一方で、これは脱化石燃料・脱炭素化へのチャンスともいえるでしょう。そこで注目されているのが、「エネルギーの地産地消」です。いわば「エネルギーのDAO※」とも呼べる新しい仕組みの実現に向け、今どんな取り組みが行われ、何が課題となっているのか。多彩なゲストとともに考察しました。

※DAO:Decentralized Autonomous Organizationと呼ばれる分散型自律組織のこと。一般的には、ブロックチェーンに基づく組織や企業の形態の一つで、中央管理者を持たず組織内のメンバー一人ひとりによって自律的に運営されるコミュニティを指す。

Profile

福田 明

福田 明(ふくだ あきら) さん

三菱電機株式会社
ビジネスイノベーション本部 事業推進チーム マーケティングリーダー

三菱電機にて国内発変電プラント建設業務に従事した後、海外の重電関連新事業を担当。南米・欧州各国でマイクログリッド・電力通信などの事業開発にあたる。その後、東日本大震災を受けた電源復興や分散電源開発のプロジェクトを推進。今年度からビジネスイノベーション本部に異動、ライフ・モビリティ・インフラ関連の新規事業のマーケティングを統括している。

齊藤 三希子

齊藤 三希子(さいとう みきこ)さん

株式会社スマートアグリ・リレーションズ
社長執行役員

国内Sier、日系シンクタンク、外資系コンサルティングファームを経て2022年より現職。
地域資源を活用した持続可能な地域モデルの創出や、先進的な「農業×エネルギー」「食農×医療・福祉」「AgriFoodTech」などのビジネス策定に取り組む。『Newspicks』にて「環境・エネルギー、食・農業」分野のプロピッカーとしても活動中。

井上 博成

井上 博成(いのうえ ひろなり)さん

一般社団法人 飛騨高山大学設立基金
代表理事

東日本大震災をきっかけに、出身地である高山市と京都大学との間で2014年から自然エネルギーに関する研究を開始。主な研究領域は自然資本と地域金融。木質バイオマスエネルギーや小水力発電の事業化をはじめ、飛騨五木株式会社、すみれ地域信託の設立も手がける。現在は、高校時代からの夢だった大学設立に向けて準備中。

川口 あい

ファシリテーター
川口 あい さん

NewsPicks ブランドデザインエディター

トークテーマ01 「地産地消エネルギー」の現状と課題

「エネルギー大転換時代」を迎えつつある今、地域のクリーンな資源で必要な分だけ創って使う「エネルギーの地産地消」への期待が高まっています。その理由は主に3つあると、スマートアグリ・リレーションズの齊藤三希子さんは解説します。

「1つは、2011年の東日本大震災での経験です。発電所の被災による大停電や計画停電などの電力危機に直面し、中央集中型の電力システムへの懸念が生じました。分散型エネルギーが注目され始めたのもこの頃からです。2つ目は、ロシアのウクライナ侵攻の影響による原油価格高騰を受け、電力料金が急上昇したため。こうした状況を踏まえ、日本政府が分散型社会実現のための電力制度整備を推進中であることも、注目の理由となっています」

ただし、「エネルギーの地産地消」の実現には大きな課題も。その1つが、昨今の電力価格高騰により、市場から電力を調達する地域新電力が破綻状態にあるという現状です。さらに、需要側フレキシビリティの拡充施策が不足していることも、分散型エネルギーを妨げる要因に。「日本の場合は他国と比べて、EVの普及といった電力の需給バランスを調整する土壌づくりや、消費者の行動変容を促す施策が十分ではありません。加えて気象変化の激しい日本で再生可能エネルギー(以下、再エネ)を活用するには、高精度な再エネ出力予測技術の進展も今後の課題となっていくでしょう」(齊藤さん)

そうした中、東日本大震災をきっかけに、地元・飛騨高山の地域資源に着目し、木質バイオマスや小水力発電による「エネルギーの地産地消」に取り組んでいるのが、飛騨高山大学設立基金 代表理事の井上博成さんです。

「発電、送電、配電、消費の4つの電力利用プロセスのうち、地産にあたるのが発電。再エネの場合は山や川、日照といった地域の特性がその資源となります。とはいえ、発電所を造るには多額の資金や建造・維持管理技術も必要なため、地域の人が自ら地産するのは容易なことではありません」

そこで井上さんは、1000~1万kW程度の発電規模を持つ小水力発電所よりさらに小さい、ミニ水力発電所(100~1000kW程度)やマイクロ水力発電所(100kW程度以下)を飛騨高山に建設。「小さな沢の水を使い、利用後はまた沢に水を戻すことで環境負荷を低減したモデルで、発電規模は19.9kW規模。これで住宅約40軒分の発電量(1軒あたり3500kWh換算)を実現しています」

発電所は規模が大きいほど発電コストは下がりますが、地域の特性や地形を活用したミニ/マイクロ発電所であれば比較的用に造れ、需要に見合った発電も可能。まさに「エネルギーの地産地消」を体現している好例といえます。

一方、「日本は再エネには向かない国」と言うのは、三菱電機ビジネスイノベーション本部の福田明さんです。「太陽光発電に最適な平地が少なく、海も遠浅で洋上風力発電設備が建てにくいため、世界の再エネ均等化発電原価(LCOE)と比べてもかなり割高となります。しかし、原油高と円安で輸入資源がここまで高騰している今、カーボンニュートラル実現のためにも、本格的な再エネ導入は不可欠。課題は山積ですが、『エネルギーの地産地消』は産官学問わず国民全体で考えていくべきテーマといえるでしょう」

トークテーマ02 テクノロジーで実現する「エネルギーのDAO」

自律分散型エネルギーマネジメント、すなわち「エネルギーのDAO」におけるステークホルダーには、蓄電池やEV、分散型電源、デマンドレスポンスなど様々な技術やサービスの担い手が求められます。「特に再エネポテンシャルの低い日本においては、あらゆるエネルギーやテクノロジーを組み合わせ、いかに分散利用するかがポイントになります」と齊藤さん。

分散型エネルギーリソース(DER)の定義

出所:経産省資源エネルギー庁, 第1回次世代の分散型電力システムに関する検討会(2022年11月7日), 資料5

その追い風となるのが、2022年11月に経済省が設置した「次世代の分散型電力システムに関する検討会」です。すでに分散グリッドの新たな補助事業やイノベーションの検討、フレキシビリティや再エネ吸収、バランシングといった電力システムへの貢献に関する議論も始まっており、多くの期待が寄せられています。「私たち消費者も関心を高く持ち、できることから自分の生活に採り入れていくことが大切です」(齊藤さん)

最近では、人の歩行などの微小な圧力変動を活用した「床発電システム」や、どこでも貼って使えるシート状の「薄膜太陽電池」などの技術も登場。エネルギー効率も格段に高まっています。「こうしたテクノロジーを利用し、日常の中にちょっとした発電所を増やしていくことで『エネルギーの地産地消』に貢献していきたい」と齊藤さんは言います。

では、地産地消に取り組む地域においては、どのようなステークホルダーが存在するのでしょうか。井上さんの実践する小水力発電を例にとると、そこには政治的要因から技術・インフラ的要因、事業実施主体・計画・資金調達要因にわたる様々な利害関係者が絡んでいるようです。「利水にあたっては、漁業や農業を生業にされている方々との利益相反も生じるし、ミニ水力やマイクロ水力となると相応のイノベーションも必要です。それらをすべて調整し、前向きな共創環境をつくっていくことが何より重要となります」

井上さんの場合は、「小水力発電事業を成功させて、地元に大学を創りたい」という明確なビジョンがあったからこそ、地元の人たちの賛同が得られ、地域の金融機関からも資金調達が受けられたといいます。「理念に共感してもらうことで初めて利害関係者が一丸となり、共に未来を目指せるようになる。僕自身も今、それを肌身で実感しています」

一方、都市部の場合は、また違った構図が浮かび上がります。福田さんが示したのは、電力ネットワーク側から見たステークホルダーとのつながりです(図2)

ソリューション① エリアEMS

「三菱電機では、電力系統と地域エネルギーセンター、街区電力網を組み合わせた、エリアEMS(エネルギーマネジメントシステム)というソリューションを開発しています。それぞれの街区にEMSを置き、さらにそれを束ねる統括EMSにより、必要に応じて発電や節電、蓄電したり、ネットワークを通じて電気を融通し合ったりというコントロールが可能となるものです」(福田さん)

こうした技術があるにもかかわらず、日本では欧米ほど自律分散型エネルギー社会が進んでいないのはなぜでしょうか。その違いは、電力会社への依存度にあると福田さんは指摘します。「欧米の電力料金は市場連動型のため、山火事一つで大停電になったり、月の電気代が100万円に跳ね上がったりすることもあります。一方で、日本の電気料金は総括原価方式に由来して比較的安く、電力供給も安定している。自分たちで地産地消するよりも、電力会社に任せるほうが安心だったのです。ある意味非常に恵まれた国なんですね」

とはいえ、昨今の不安定な状況を鑑みると、自律分散型エネルギー社会への転換は必須といえるでしょう。「地域にはまだ使われていない資源がたくさん眠っています。山深いとか傾斜が急だといった、一見ハンデに思える地の利を活かして地産地消を進めていくことが大事」という井上さんの言葉に、「エネルギー問題をジブンゴト化し、地域のポテンシャルを見つめ直してみることが、転換への第一歩」だと、福田さんも大きくうなずいていました。

トークテーマ03 「エネルギーDAO」で生まれる
ソーシャルイノベーション

地域の自然資本をテクノロジーと組み合わせて有効活用し、サステナブルな地域社会を推進する「エネルギーのDAO」。その過程で生まれるイノベーションとして、齊藤さんが注目するのは、「再エネの予測技術の向上」と「分散型エネルギーリソースの統合制御技術の確立」です。

「なかでも風力発電においては、風速計測器をはじめIoT技術やデータ通信技術などのイノベーションを総合的に起こす必要があります。今日、METoA Ginza 3Fの展示を見て驚いたのは、その技術革新がかなり進んでいるということ。かつて私が宮城県石巻市で発電事業の実現可能性調査を行ったときは、風況計測、シミュレーションを経て実際に建設するまでに8年かかりましたが、今ならもっとコンパクトに、短期間で計測できそうです」(齊藤さん)

3Fで展示しているのは、ドップラーライダーを活用した風況データソリューション。「三菱電機では、さらに広域の風況シミュレーション技術を開発することにより、風力発電に適した土地の発見や開発に貢献したいと考えています」と福田さんは補足します。

また、「需要側のフレキシビリティをどれだけ高めていけるかも大きな課題」だと、齊藤さんは続けます。「例えば、電気事業者を介さずに分散型電源と電力負荷を仮想的にバランスさせる技術や、多様な分散型資源を一つの資源に見立てて運用するバーチャルパワープラント(VPP)なども検討、導入していく必要があるでしょう」

このVPPの概念を体現する一つの方策が、三菱電機が研究開発中の「マルチリージョンEMS」です。「太陽光パネルをたくさん置ける工場Aと設置スペースの少ない工場Bのように、条件の異なる離れた場所同士をつないでエネルギーを一元運用することで、再エネ比率の拡大とコストの最適化を図ることが可能になります」と福田さん。

こうした技術のいくつかに関しては、すでに実証実験も始まっています。これを実験だけで終わらせず、真のソーシャルイノベーションにつなげていくには、国の補助金や需要側の行動変容も必要です。

ソーシャルイノベーションを構成する要素として、井上さんは構想から飛躍までの7つのステップを挙げています
(図3)。

地域におけるソーシャルイノベーション

『ソーシャルイノベーションを構成する7つの要素』 ~ 構想から飛躍まで ~

【平成25年度  文部科学省産学官連携支援事業委託事業】 「ソーシャルイノベーションに関する調査」 委託業務成果報告書  平成26年3月  京都大学大学院経済学研究科 教授 植田 和弘 におけるプロジェクトより引用

「ソーシャルイノベーションを起こすきっかけとなるのは、こうありたい社会のビジョンと願望。そこにイノベーターが誕生し、共感する仲間や専門家たちが集まってきます。さらに利害関係者ともビジョンを共有したうえで、リスクをとりつつ小さなところから実証を始め、検証を繰り返しながらスケールアップしていく。その過程で、関わるすべての人にWin-Winをもたらす仕組みだとわかれば、賛同や支援の輪もさらに広がり、目指す未来に近づくことができると考えています」(井上さん)

自治体レベルで様々なソーシャルイノベーションが起き、さらに各地域がつながることで、新たなソリューションが生まれる可能性もあります。「例えば、水力資源を持つ地域と太陽光発電に最適な地域がそれぞれのエネルギーを持ち寄って活用する、新しい地産地消のあり方も考えられます」と福田さん。「小さなイノベーションを重ね、それを全国に広めていった先に、カーボンニュートラルを実現する日本の未来も見えてくるのではないでしょうか」