イベントレポート
未来を変える出会いがある。
共創ライブ #2
壁を、ぶち破れ。
新規事業「実装」へのロードマップ
METoA Ginzaでは、展示コンテンツに関連したゲストを迎えての公開トークセッション、「共創ライブ」をイベントごとに実施しています。2022年5月25日に開催された「共創ライブ#2」では、イノベーションの創出から実装までのロードマップについて、数々の新規ビジネスを生み出したゲストたちと共に語り合いました。
Profile
ekinoteプロジェクトのリーダー
中村 大輔(なかむら だいすけ)さん
三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
ソリューションデザイン部 主席技師長(Chief Designer)
統合デザイン研究所にて、コンセプトの創出から製品・サービスの企画まで、広い領域のデザインおよび研究開発に取り組む。全国にある鉄道駅を起点に街の情報を一元化したアプリ「ekinote」を発案し、営業本部等とともに新たな地域振興プラットフォームの創出を目指す。
Makuake共同創業者
坊垣 佳奈(ぼうがき かな)さん
株式会社マクアケ 共同創業者 / 取締役
2006年同志社大学卒業後、サイバーエージェント入社。サイバー・バズの他ゲーム子会社2社を経て、マクアケの立ち上げに参画。主にキュレーター部門、広報プロモーション、流通販路連携関連の責任者として応援購入サービス「Makuake」の事業拡大に貢献する。金融機関や地方自治体と連携した地方創生にも尽力。
起業家・投資家・経営者
麻生 要一(あそう よういち)さん
株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO
2006年東京大学卒業後、リクルート入社。社内起業家としてニジボックスを立ち上げ、150人規模まで企業拡大。その後も約1,500の社内企業チームの創業と約300社のスタートアップ企業のインキュベーション支援を経験し、起業家に転身。2018年より現職。ゲノムクリニック代表取締役Co-CEO。株式会社UB VENTURESベンチャー・パートナー。株式会社ニューズピックス執行役員。著書に『新規事業の実践論』。
ファシリテーター
川口 あい さん
NewsPicks ブランドデザインエディター
「ekinote(エキノート)」とは?
三菱電機が今年3月にリリースした、駅と街のガイドブックアプリ。全国約9,100駅を起点に、交通・観光・グルメ・ショッピング・自治体情報など様々なカテゴリーを一元化し、駅と街の魅力を記事やコラムで楽しめるほか、便利なおでかけ情報として活用できる。頻繁に使用する駅や行ってみたい街、気に入った記事などは、「マイノート」に登録すればいつでも呼び出し可能。将来的にはユーザーによる投稿機能も実装予定で、このデータ基盤と開発中の「地域振興プラットフォーム」の活用より、地域振興や地域DXに資する新たな価値を創出していく。
駅起点のアプリとプラットフォーム開発で地域DXを支援
「VUCAの時代といわれる中、企業が生き残っていくにはイノベーションを創出し、新しいビジネスにつなげていくことが必須の課題となっています」という、川口あいさんの口上から始まった「共創ライブ#2」。今回のテーマである「新規事業を実装するためのロードマップ」を討論するにあたって、まずは「ekinote」開発の舞台裏が紹介されました。
「ekinote」は、駅と駅周辺の街の情報を一元化したガイドブックアプリ。地域振興DXを目的とした、三菱電機の新規事業を目指しているプロジェクトです。開発のきっかけは、「地域課題への着目」にあったと、三菱電機 統合デザイン研究所の中村大輔さんは語ります。「コロナ禍で危機に瀕している観光・飲食業に加え、鉄道会社の働き手不足、自治体DXの遅れ、情報の地域格差など、地域には課題が山積。各地でのヒアリングを集約したところ、『全国のユーザーに低コストで効果的な情報発信をしたい』というニーズが浮かび上がってきました」
そこで、地域と外との交流点であり、街の玄関口でもある「駅」に着目して生まれたのが、「ekinote」というわけです。「駅起点というのは今までなかった。趣味のサウナ探しに活用したいですね」(坊垣さん)、「課題ありきで始まっているところが素晴らしい。課題があるところには必ず商売が成立します」(麻生さん)と、ゲストの反応も上々です。
とはいえ、アイデアをビジネスにつなげるまでの道のりは容易ではありません。そこで、「共創ライブ#2」では、新規事業開発に必要な3つのマイルストーンを提示。それぞれのトピックについて意見が交わされました。
マイルストーン01 実装への弱みと強みを『発見する』こと
新規事業実装にあたって弱みとなるものは何か。大企業においては「守りの力学」だと、マクアケ共同創業者の坊垣佳奈さんは言います。「企業規模が大きくなるほど“攻め”より“守り”の意識が強くなり、新規事業のアイデアを通すのにもいろんな事業部の承認が必要となります。それが実装の大きなハードルになっているのではないでしょうか」
続けて、大企業の強みについては、「歴史に磨き抜かれたオリジナリティと技術」だと提言。「この2つの掛け合わせで何ができるかを私たちはつねに考え、ご提案しています。こうした強みは、企業の中にいる人にこそ注目していただきたいですね」
対して、「大企業には強みしかない」と断言するのは、アルファドライブ代表取締役社長の麻生要一さん。「人材、ブランド、資金、社会的信用、どれをとっても中小企業やスタートアップと比べようもないほど強い。そもそも事業というのは、顧客課題にフォーカスしてお客様が喜ぶモノを作ること。強い大企業がその一点に集中したら、自動的に技術やブランドといった自社のアセットが生きてくるんですよ」
「ekinote」も顧客課題に目を向けた事業ですが、その発端は小さな思いつきに過ぎなかったと中村さんは言います。「何かを一元管理できるアプリを作ろうとしていて、最初はラーメンだったりアイドルだったりと色々頭の中で試行錯誤した結果、駅にたどり着いたんです。そうしたら、全国の支社が『それ、地域の課題解決になりますよ!』って」
一人のアイデアから全国の仲間が動き出す。それもまた、大企業の強みなのかもしれません。
マイルストーン02 トップを『動かす』
「『ekinote』の実装にあたり、トップをどう動かしたのでしょうか」という川口さんの問いに対し、「私の場合はトップを動かしたというより、トップに動かされました」と中村さん。「というのも、2015年にソフトウェアの新規事業をやろうとしていたんですが、三菱電機でやるにはリスクが高いということで他社からリリースしたところ、まさかの大当たり(苦笑)。デザイナー発案でここまでヒットする商品が作れたという手応えと、本当は社内事業としてやりたかったという悔しさ。ある種の成功と失敗を同時に経験した私たちに、当時の上司が『次は社内でリベンジしなはれ』と強く背中を押してくれたんです」
以前の経験と上司の後押しがあったからこそ、「ekinote」はスピーディーに実装できたのだといいます。麻生さんは、このプロセスを高く評価。「新規事業は、失敗を経験した人にこそチャレンジさせるべき。一度の失敗でレッテルを貼って活躍の場を奪うというのは、大企業によくありがちな大きな間違いです。失敗は次の成功に必ずつながります」
では、新規事業を実装に導くためのトップの役割とはどのようなものでしょう。坊垣さんは、「自ら信念を持ち、それを託せる人間を見極めること」だと言います。「新規事業には苦しい局面が山ほどあります。そこを乗り切るにはトップの覚悟と執念が必要だし、何より最後までやり切れる人材の見極めが重要になります」
麻生さんも「結局は任せるしかないんですよ」と、坊垣さんに賛同。「大企業の経営層は、新規事業なんか経験したことがない人がほとんど。だから無理にわかったふりをせず、部下を信じて任せるのが正解。そうしたら部下だって頑張りますよ。それが新規事業をスムーズに立ち上げる一番の近道だと思います」
マイルストーン03 組織の壁を『超える』
様々な消費者のニーズや課題に応えていくためには、多角的な視点が重要です。加えて、スピーディーな変化に対応する機動力も求められ、一企業での解決がますます困難な時代となっています。そこで昨今注目されているのが、組織を超えた「共創」です。
多くの企業コラボ案件を手がけた坊垣さんは、「イノベーションの源泉は多様性にある」と話します。「一つの組織で得られる情報や刺激には限界があります。自社とは全く違う業界やカルチャーから新しい要素を汲み入れることで生まれる”第3の解”こそが、共創の価値ではないでしょうか」
一方、麻生さんは「共創なくしては事業開発できない」と前置きしたうえで、まず優先すべきは“企業内共創”だと訴えます。「大企業はダイバーシティの宝庫なので、部署を超えてつながるだけでも意外なイノベーションが起きる可能性は高い。社内コラボと外部との共創、どちらも並行して進めることで、より強力で有機的なシナジーが生まれるはずです」
実は、「ekinote」も社内コラボ案件の一つであると、中村さんは打ち明けます。「『面白そうだからうちも混ぜろ』みたいなことから始まって、今では全国の支社を含む営業部門を核に、統合デザイン研究所を含む研究開発部門、宣伝部、IT関連部門の4組織を横断するプロジェクトに成長。将来的には、各部署がもともとやりたかったことをこのプロジェクトで実現できるような青写真を描いています」
社内の壁を取り払えた要因は、リモートワークの普及にもあったようです。「移動や出張の手間をかけずにいつでも打ち合わせや雑談ができるので、いい意味での“闇研(非公式の事業企画や研究開発)”がやりやすくなったんですね。もしリモート環境がなかったら、『ekinote』は生まれていなかったかもしれません」
事業を立ち上げたら、次に考えるのは継続と拡大。その手法を問いかけたところ、ゲストからは次のような回答が返ってきました。「スタートから継続までに境目はなく、ひたすら新たなトライを積み重ねていくだけ」(坊垣さん)、「スタートと継続の間には『成立』がある。成立した後にその事業は別のカタチに変わるかも知れない。それを容認しながら育てていく姿勢が重要です」(麻生さん)。
これを受けて、中村さんも「たしかに継続っていう言葉には製造業におけるマイナーチェンジの狭いニュアンスがありますね」とお二人に同意。「『ekinote』はアプリというカタチにこだわらず、ピボットしてもその精神を受け継ぐようなカタチで大きく成長させていきたいと思います」──そんな力強い宣言でトークセッションの締めを飾りました。