イベントレポート

イベントレポート

未来を変える出会いがある。​
共創ライブ #1

2022年4月5日(火)

テレプレゼンスロボットによる新たな社会貢献の可能性

-テクノロジーによる未来生活の拡張-

METoA Ginzaでは、展示コンテンツに関連したゲストを迎えての公開トークセッション、「共創ライブ」をイベントごとに実施してまいります。その第一弾となる「共創ライブ#1」は、2022年4月5日に開催。分身ロボットカフェを主催する吉藤オリィさんや、AR三兄弟の川田十夢さんをゲストに迎え、三菱電機の開発者たちとともに、テレプレゼンスロボットの可能性について語っていただきました。

Profile

錢谷 享

テレプレゼンスロボット開発者 
錢谷 享(ぜにや すすむ)さん

三菱電機株式会社 ビジネスイノベーション本部
ビジネスイノベーション統括事業部 プロジェクトリーダー

自動車の電動パワーステアリングの制御やソフトウェアの開発に従事したのち、ビジネスイノベーション本部にてサービスロボットの事業開発に取り組む中で、自律運転としテレプレゼンス機能を併せ持つロボットの将来性に注目。テレプレゼンスロボットによる社会課題の解決を目指す。​

春名 正樹

Visual Haptics 開発者
春名 正樹 (はるな まさき)さん

三菱電機株式会社 先端技術総合研究所
メカトロニクス技術部 機械動力学グループ 兼 移動体・宇宙システムグループ Head Researcher /博士

宇宙望遠鏡・超大型地上望遠鏡の開発を通じて、三菱電機初のGood Design Award Best100をミラーメンテナンス自動化ロボット開発で受賞。無電化・電力不安地域の貧困解決を目指し、インドネシアで三菱電機初のSDGsプロジェクト“small world project ”を提案・牽引。現在は、遠隔機械操作システムの開発に従事する。

吉藤 オリィ

分身ロボットカフェ主宰
吉藤 オリィ(よしふじ おりぃ)さん

株式会社オリィ研究所 代表取締役 CEO​

早稲田大学にて「孤独の解消」を目的とした分身ロボットの研究開発に取り組み、2012年株式会社オリィ研究所を設立。分身ロボット「OriHime」の開発や寝たきりでも働けるカフェ「分身ロボットカフェ」等を開発。2021年度グッドデザイン大賞、メディア芸術祭エンターテインメント部門ソーシャル・インパクト賞受賞。

川田 十夢

開発者
川田 十夢(かわだ とむ)さん

AR三兄弟 長男

10年間のメーカー勤務で特許開発に従事したあと、開発ユニットAR三兄弟の長男として活動。芸能から芸術、空間から時間、羽田空港から日本橋に至るまであらゆるジャンルを拡張している。J-WAVE『INNOVATION WORLD』が放送中、開発密着ドキュメンタリー『AR三兄弟の素晴らしきこの世界 vol.5』がBSフジで2022年中にオンエア。WIREDで巻末連載、書籍に『拡張現実的』『AR三兄弟の企画書』、代表作に『VIRTUAL NIPPON COLOSSEUM』『能ミュージック、能ライフ。』がある。

岡田 弘太郎

ファシリテーター 
岡田 弘太郎(おかだ こうたろう)さん​

『WIRED』日本版 編集部 エディター

テレプレゼンスロボットは私たちの未来をどう変える?​

「テレプレゼンスロボットによる新たな社会貢献の可能性」をテーマに開催された、「共創ライブ#1」。会場では、『WIRED』日本版 編集部の岡田弘太郎さんの進行のもと、4名のパネリストたちによる白熱した議論が行われました。

テレプレゼンスロボットとは、パソコンやスマホなどを使って遠隔地から操作できるロボットのことです。三菱電機でテレプレゼンスロボットの開発に取り組む錢谷享さんは、「人が介在することにより、トラブル時にも咄嗟の判断で対処できるなど、融通の利く操作が可能となります。また物理的なテレワークを実現することで、育児や介護、少子化問題や地方の活性化といった社会課題にも大きく貢献できるようになるのではないでしょうか」と、テレプレゼンスロボットへの期待を語ってくれました。

こうしたロボットの遠隔操作をより直感的に支えるのが、三菱電機の「VISUAL HAPTICS(ビジュアル ハプティクス)」という技術です。ハプティクスとは、触覚や力の感覚を通じて情報を伝える技術のこと。VISUAL HAPTICSは、この力触覚を色の濃淡などの視覚によって伝達することで、シンプルな機器構成と脳への負担が少ない直感的な操作をもたらします。

開発者の春名正樹さんは、「力触覚の伝達には専用のインターフェースを装着する必要がありましたが、VISUAL HAPTICSならテレプレゼンスロボットの操作画面上で感覚を把握できます。システムを簡略化することで、テレプレゼンスロボットの社会実装を少しでも早めたいという思いから、この開発に取り組みました」と話します。
一方、ロボットを使った新しい働き方をすでに実現しているのが、オリィ研究所の運営する「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」です。ここでは、病気や障害などで外出困難な従業員が分身ロボットの「OriHime(オリヒメ)」を遠隔操作し、カフェサービスを提供。テレプレゼンスロボットによる新しい社会参加の形を示しています。

研究所代表の吉藤オリィさんは、自身も病弱で学校に行けなかったことから、”もうひとつの身体”としてOriHimeを開発したといいます。「僕の研究テーマは『孤独の解消』。ALSの患者さんたちと出会い、コミュニケーションや社会参加の方法を模索するうちに、寝たきりでも働けるカフェを作ろうと考え、昨年常設店を日本橋にオープンしました。今日はパイロットのマサにも来てもらっています」

そう言う吉藤さんの隣には、分身ロボットOriHimeがちょこんと佇んでいます。このOriHimeを通して、マサさんが会場に挨拶してくれました。「僕は重病で寝たきりでしたが、視線入力やセンサーでロボットを動かすことでカフェやいろんな場所で働けるようになりました。今日はよろしくお願いいたします」

そのマサさんを指し、「これぞプレゼンスだよね」と称えるのが、AR三兄弟・長男でAR開発者の川田十夢さん。「OriHimeの向こうにマサ君がいる。むしろ、マサ君として今ここにいるような感覚すら覚えます。画面越しに会話するのとは明らかに違う存在感があるんですよね。OriHimeにしてもVISUAL HAPTICSにしても、あえてテクノロジーをそぎ落としながらもこれだけの存在を示せていることに、テレプレゼンスロボットの大きな可能性を感じます」

テクノロジーを引き算することで存在感が生まれる

私たちは、何を持ってプレゼンス(存在)を感じるのでしょうか。その鍵は、「生命」にあると吉藤さんは考察します。「人がスーパーコンピューターよりもクマのぬいぐるみに愛着を感じるのは、そこに生命を見出せるから。つまり、生命があると想像できるロボットを操作することで、自分の身体が別の場所にあっても、その場にいるのと同じ感覚を共有することができるのだと思います」​

「そこにいる」という自覚だけじゃなく、その認識を周りと一致させることで「いる」という状態はつくれ、存在は伝達できる。それを補強するためにも、リモートにおいては何よりコミュニケーションが重要だと春名さんは言います。「マニピュレーション(操作)するうえでは、ロボットが多関節であることが望ましいですが、コミュニケーションに関してはシンプルな動きのほうがいい。テレプレゼンスロボットでは、その分岐の見極めが大切になってくると思います」​

ちなみに吉藤さんが最初に開発したOriHimeには、自由に動かせる関節が24軸もあったそうです。それが今では6軸にまで簡略化。情報量を減らしたほうが相手の想像力も膨らむ、というのがその理由です。「我々の目的は、外出困難者たちの居場所を見つけること。OriHimeで何ができるかではなく、どう扱われるかということが重要なので、受け入れられやすいデザインや空間性を重視しています」

とはいえ、爆発処理や地雷除去といった繊細で危険な作業をまかせるロボットには、やはり自律性や操作性が大きく求められてきます。

そこで、錢谷さんが取り組んでいるのは、人の認知が及ぶテレプレゼンスと自律も含めたリモートマニピュレーションの融合技術。「例えば、障害物を避けながら遠くまで移動する、といった操作は人を疲れさせてしまうので、そこにロボットが勝手に動いてくれるようなレイヤーを仕込んでおく。つまり、人は自分で動かしているつもりでも、実はロボットがサポートしているという状態をつくることで、人間の負担を減らしつつ操作性を高めるのが狙いです」​

存在感と利便性。その2つを追求するために、「最後に何を残すかが大事」だと川田さんは言います。「人間がやらな
くちゃいけないこととやらなくてもいいこと、意識すべきことと意識せずともできること。そのせめぎ合いを解決した
先に、自ずと目指すテレプレゼンスロボットのあり方が見えてくるのではないでしょうか」​

VISUAL HAPTICSの究極進化は他者との感覚共有

METoA Ginza 3Fには、テレプレゼンスロボット×VISUAL HAPTICSを体験できるコーナーがあります。さっそく試してみたという川田さんは、「触り心地をビジュアルで教えてくれるというのがすごい。力触覚を視覚だけでここまで精度高く見られるなら、人間が触れないものさえ触れるようになるかもしれない」と感動を語ってくださいました。​

開発者の春名さん曰く、「人が感じられないもの、体験できないものを体験できるのも、テレプレゼンスロボット×VISUAL HAPTICSの利点」。この技術は、今後どのように進化していくのでしょうか。

マサさんは、「味とか匂いが視覚でわかるようになれば、お客様のおいしいという気持ちに共感できるので、ぜひ実現してほしいですね」と期待を寄せます。これを受けて、吉藤さんは、あるALS患者さんの「人がおいしそうに食べているのを見ることが、僕のおいしさなんです」という言葉を紹介されました。自分は食べることができなくても、見ることでおいしさは伝わる。ここに、次の開発のヒントが生まれました。​

春名さん :「研究が進むことで、味覚や嗅覚を映像に置き換える技術は実現できると考えていました。でも、それが他人の感覚でもいいんだという発想はすごく面白い。VISUAL HAPTICSが究極進化した先には、人間だけでなく、動物の気持ちだとか、自然や地球そのものに共感できるような世界が開けてくるかもしれませんね」

錢谷さん : 「私たちは、テレプレゼンスロボットをいかに人間らしく存在させるかという課題に試行錯誤していましたが、離れたところにいる人間の意識を共有し合うのであれば、見た目はあまり関係ない。むしろ共感を生む形こそが重要になってくるのでしょう」

形が重要であるという意見には、川田さんも賛同するものの、「目的に応じて変えてほしい」と訴えます。「だって自動販売機が人の形をしていたら面倒くさいでしょ? 単純サービスを担うロボットは軸を切り落としてシンプルな形にして、介護などのより生身で接してもらいたいロボットには人間らしくあってほしいですね」

では、人間らしいロボットとはどういうものでしょうか。4人4様のユニークな意見が飛び交うなか、それは「ヒマを持て余すロボット」であるという結論に。「でも、ヒマであくびをするような人間くさいロボットは怖いので、やはり人間とは別の形で、かつ誰かが分身として使っているのがわかるのが、テレプレゼンスロボットの理想といえるかもしれませんね」──そう言う錢谷さんの一言で、トークセッションは和やかに幕を閉じました。