鍵は想像力。学生と考える、女性が働きやすい職場環境

女性が本当に働きやすい職場環境とは、なんだろうか?三菱電機では “一人ひとりが自分らしく輝くこと”を掲げ、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン推進に取り組んでいます。そのうち、ジェンダーエクイティやライフステージに寄り添った支援は、大切なテーマのひとつです。
今回、青山学院大学の学生と三菱電機従業員で、「女性の身体と職場環境」をテーマにワークショップを実施しました。ひとくくりに女性といっても、置かれた状況や身体の状態はさまざま。学生、社会人、男性、女性と異なる視点が入り混じったワークショップで見えた答えとは? ワークショップのあと、プロジェクトリーダーの奥田勇さん、そして参加者の三菱電機・金元真希さんと青山学院大学・野本葵さんにお話を聴きました。
奥田 勇(おくだいさむ)さん
三菱電機統合デザイン研究所ライフクリエーションデザイン部
家電製品を中心に、人々の暮らしに関わる製品やソリューションをデザインする一方、自主プロジェクト「Design X」で女性の健康課題や活躍をテーマに活動。
野本 葵(のもとあおい)さん
青山学院大学 地球社会共生学部 地球社会共生学科4年
ゼミ長を務める松永エリック・匡史ゼミでは社会人アドバイザーと関わりながら事業構想を練る。一昨年まで女子ラグビー実業団チームに所属。スポーツ統括団体に就職予定。
金元 真希(かねもとまき) さん
三菱電機人財統括部グローバル人財部DE&I推進室
社員一人ひとりが働きやすい環境を整えるため、LGBTQの理解浸透・発信、多文化共生、障がい者、仕事と生活の両立支援、ジェンダーエクイティに取り組む。
みんなが働きやすい職場環境を目指して
――ワークショップの冒頭に、三菱電機がDE&Iに積極的に取り組んでいるという説明がありましたが、改めて具体的な内容をお聞かせください。
奥田さん:従業員の皆さんが職場で快適に働くことが、一人ひとりが自分らしく生きることにつながり、それが三菱電機という会社が輝くことにつながると考え、さまざまな取り組みを行っています。そのうち、ジェンダーエクイティについては、もともと男性比率の高い会社ということもあり、新卒採用に占める女性比率を増やすこと、女性管理職を増やすこと、男性の育児休職取得率を高めることなどを具体的な目標に掲げつつ、女性が働きやすい職場を目指した施策を行っています。
――今回のワークショップは、まさに「女性が働きやすい職場環境」をテーマにしていますね。
奥田さん:これは私自身の個人的な思いもあります。保育園児の子どもがいて、私は出産に立ち会い、育児休暇も取得し、育児にも積極参加しているのですが、“出産”と“母乳育児”だけはどうやっても男性にはできない。そこで女性を手助けすることができないかと考えていくうちに、生理や妊娠、時短勤務、子どものお迎えなど、働く女性が抱えている課題の多くは、女性が職場で声を上げにくいものではないかと気づき、それを解決する方法を皆で考えました。

――ワークショップに参加されたおふたりは、このテーマに関して、どのような課題感をもっていましたか?
金元さん:私自身、もともと海外営業部門に所属していましたが、子どもを出産し、育休を経て復帰する際、事業計画等を担う部門へ異動しました。異動したのは、今後のキャリア経験を積むという観点に加えて、家庭と仕事の両立を考えた時、夫婦いずれかが比較的時間をコントロールしやすい働き方に変えた方がいいと思ったためです。忙しそうな夫をみて、私の方が部署異動をするべきだ、と当時思ったのは私自身にもアンコンシャスバイアスがあったのだと思います。異動先の仕事にも興味があったし、その選択に後悔しているわけではありませんが、これは私一人の問題ではなく、このままではこの先もずっと、女性だけがこういう選択を繰り返してしまうかもしれない、と感じました。そこで社内の女性のネットワーキングのような活動をしてみたところ、やはり多くの人が同じ課題を抱えていると知って、会社として取り組むべき問題だと感じていました。
野本さん:私はまだ社会人経験はありませんが、男女問わず従業員それぞれにとって風通しの良い職場であるためには、無理なく自分のペースで悩みを共有できるということが大事なんじゃないかと思っていました。なんでもオープンに言い合えることが安心という人もいれば、少しでも理解してもらえたら心落ち着くという人もいて、グラデーションがあると思います。そのような違いを互いに尊重し、悩みを相談し合えるような空気感が職場にあると良いのでは、と考えていました。
自分ではない“誰か”を演じて、想像力を鍛える

――ここから、具体的にワークショップの内容について伺いたいと思います。「演劇型ワークショップ」というユニークな手法でしたが、これはどういったワークショップなのでしょうか?
奥田さん:今回のワークショップは、女性の身体特有の問題に関する場面を設定し、主人公とプレイヤーの二人一組で会話をするものです。ふたりはそれぞれ「ペルソナカード」を引いて、設定された背景やキャラクターを前提に演じ、またプレイヤーはさらに「対応カード」を引いて、「最高の対応」「モヤモヤする対応」「最低の対応」のいずれかを演じます。その後、参加したメンバーみんなで、発言について感じたことや、どう言えばよかったのか、また発言した本人がどんな意図を持っていたのか、どんな気持ちになったのかを共有し合います。これによって、人による働き方や考えの違いを理解し、どういった働き方が自分や相手にとって良いものなのか理解することができます。




――実際に体験してみて、率直な感想はいかがでしたか?
野本さん:演劇型ワークショップというのは初めて体験しましたが、他者になりきる難しさを感じました。性格も違う、背景も違う人がこの状況でどんなことを言うのか。想像を巡らし、実際に演じるのはとても難しかったです。
金元さん:私も難しかったですが、一方で、ランダムに引いたカードになりきるというのは楽しかった。単に「こういうふうに言うと人はこういう気持ちになりますよ」と教えられるのと違い、実際に状況を想像して、課題に直面している人に向かって自分の声で言うと相手はどういう反応を示すのか、あるいは逆に、言われるとどんな気持ちになるのかということがリアルに体験できて、自分ごと化しやすかったと思いますし、ゲーム形式なので、みんな難しく考えずに取り組めたと思います。


――さまざまな議論が繰り広げられましたが、印象に残ったディスカッションはありますか?
野本さん:「妊娠初期のつわりで会議を欠席しがちな女性」というテーマのディスカッションが特に印象的でした。迷惑をかけたくないけれど流産のリスクが高い時期に妊娠を公にすることをためらう女性従業員。一方で、密な情報共有で円滑に業務遂行するために女性従業員の事情を他メンバーに伝えようとする管理職リーダー。その責任感故の言動で相手を傷つけてしまうことがある、ということにハッとしました。また少し見方を変えると、相手の置かれた状況や立場を考えることで、リーダーに悪気は無かったのだと理解し、従業員も寛容に受け止めることが出来るのではないかと感じました。ディスカッションを通じて、発信側と受け手側の双方が「想像力」を働かせることは大事だよね、と話し合いました。


金元さん:素晴らしい気づきですね。私が大学生の時に果たしてそんな視点を持てたかしら。なんだか未来は明るいと感じます(笑)。私は、「会議中の生理用品交換」というテーマでプレイヤーを演じたんです。女性のプロジェクトリーダーという設定だったのですが、ある程度共感して一歩踏み込んで聞いてあげたほうが優しさという場合もあるけれど、人によってはそこまで踏み込まれたくないこともあるだろうと思い、迷った結果、結構ドライに表現したつもりでした。結果的には、決して冷たい印象は与えなかったようで、皆さんからすごく良かったと評価をいただいたんです。自分が思う距離感と人が感じる距離感は違うんだ、このくらいでいいんだということに気づけたのは収穫でした。
社会人と学生がともに学ぶ意味
――社会人と学生がともにディスカッションすることでも、新たな気づきがあったのではないかと思いますが、その点はいかがでしたか?
野本さん:私たち学生は日頃社会人の方と関わる機会は少ないので、とても貴重な機会になりました。学生の声に耳を傾け、学生と目線を揃えて意見交換をして下さる三菱電機の方々の姿にはインスピレーションを受けました。また、これから社会に出て実際に起こり得るシチュエーションが設定されていたので、理解から実行への繋ぎ目である「演習」の機会を得ることが出来ました。社会人の方と対話を重ねながら、どのような対応をすべきか、自分が選択した言動によって相手がどのような気持ちになるのか、具体的なイメージを膨らませることが出来たのではないかと感じています。
金元さん:私は学生さんからとてもたくさんの刺激を受けました。私達には気づけなかった答えをもらった場面もあります。また近年、職場では若い人に残業させないなど、若者への配慮が重視される傾向が強いのですが、今日お会いした学生さんたちからは、私が演じたリーダーに対して「締めるところは締める態度が良かった」などと評価をいただき、リアルな若者の感覚を聞くことができました。世代間ギャップというものはあるけれど、一方で同じ人間として年齢とは関係ない普遍的な感覚も絶対にあると思っていたので、そのことが確認できたのも収穫でした。


奥田さん:職場はいろんな世代の人、いろんな価値観の人が集まる場ですから、ともに働くうえで日々一人ひとりがアップデートを積み重ねる必要があると思います。その点で、今日のように若い世代の人達と同じ立場で対話することで、参加した社員の皆さんにも気づきがあったと思います。各々が自分の職場に戻って、若い世代の方と接する際に活かしてもらえたらと。
本当の意味で女性が働きやすい職場環境とは
――今回のワークショップを終えて、「女性が働きやすい職場環境」には何が必要と考えますか?
野本さん:結局、大事なのは想像力を張り巡らせることかな、と思いました。自分にとっての常識で相手を判断してはいけないと改めて感じました。今回は「女性の健康課題」がテーマでしたが、女性だけに留まらずあらゆる人にとって、心の持ち方が肝心なのではないかと思ったんです。
金元さん:私も「女性だけの問題にしない」ということがとても大事と感じました。今日も奥田さんが冒頭でこの課題について自身の経験も交えながら話している姿はとてもいいインパクトがあって、素敵だと思いました。この手のテーマは女性が女性だけを集めて話し合いがちですが、根本的には全員に関わることですよね。

奥田さん:おふたりの意見にまさに共感します。今回のテーマは「困っている女性の声を拾って何とかしよう」という目的に受け取られがちですが、そうではなくて、例えば誰かにひどいことを言われた、と感じた経験があったとしても、一旦自分の感情を置いて「あの人はなんでこんなことを言ったんだろう」とその人の立場や性格、背景を想像してみる。そのうえでコミュニケーションをするという発想が大事なんじゃないかなと思います。お互いにね。
野本さん:想像力を広げるのは簡単ではないし、それが大事だという感覚も従業員全員が初めから持っているものではないと思います。ですが、会社の中で少しずつ意識を変えていこうとする前向きな風土があることがとても大事だと思います。こういうことを体現している三菱電機さんの文化は素晴らしいなと思いました。
金元さん:実は三菱電機のコーポレート・コミットメントが「Changes for the Better」なんです(笑)。まさに一歩ずつ、ポジティブに改善してきたいと思います。
奥田さん:大きい会社ですからいろんな人がいます。その中でお互いの価値観を理解して、心地よい配慮ができる職場風土を作っていければと思いますし、コミュニケーションだけでなく、制度もどんどん改善していって、多様なライフステージや価値観の人が、自ら選択肢を選べる環境に整えていきたいですね。今日はありがとうございました。
