ミニチュア写真家 田中達也さん×三菱電機 対談

特別対談

ミニチュア写真家 田中達也さん×三菱電機視点を変えることで
生まれる新たな世界への誘い

三菱電機のテクノロジーが、アートや伝統、様々な文化と出会うことで、新しい発見や価値が生まれる場所、METoA Ginza。イベント第3弾「Robotic Art in Ginza-ものづくりロボットと創るアートの世界-」では、ミニチュア写真家 田中達也さんが、一般には馴染みの薄いFA機器を独自の世界観で魅力的なアートに変身させてくれています。本対談では、なぜ三菱電機は、普段あまり目にする機会のない産業用ロボットやFA機器を、イベントテーマとして取り上げたのか?そして、それらを作品として仕立て上げるために、田中氏はどのような想いで臨んだのか。それぞれの立場から、「Robotic Art in Ginza-ものづくりロボットと創るアートの世界-」の舞台裏を語ります。

Profile

田中達也

ミニチュア写真家
田中達也

1981年熊本出身。鹿児島を拠点にアートディレクター、ミニチュア写真家として活動中。株式会社MINIATURE LIFE代表。2011年4月から毎日更新している「MINIATURE CALENDAR」がインターネット上で人気を呼び、雑誌やテレビなどのメディアでも広く話題に。広告ビジュアル、企業カレンダー、書籍のアートワークなど手がけた作品は多数。写真集「MINIATURE LIFE」、「MINIATURE LIFE2」発売中。

東島 加衣子

聞き手
三菱電機 宣伝部 METoAコミュニケーショングループ

東島 加衣子

東島:田中さんは、2011年4月から365日欠かさず「MINIATURE CALENDAR」やInstagramにミニチュア写真を投稿されています。まさにライフワークと呼べるプロジェクトですが、最初は何をきっかけに始められたんですか。

田中:ミニチュア写真はまったくの趣味で、当初は週に1~2回Instagramにアップする程度だったんです。そうしたら、「毎日見たい」と言ってくれる人がいまして。ちょうど3ヵ月後に結婚を控えていたので、それまでのカウントダウン的な意味で毎日投稿するようになりました。ところが、結婚式のスピーチで、当時僕が勤めていた会社の社長が「MINIATURE CALENDAR」を紹介してくれたため、辞めるわけにはいかなくなって……(笑)。気づけば5年以上が過ぎ、ミニチュア写真の仕事も増えてきたので、結局会社のほうを辞めてしまいました。

東島:趣味が高じてお仕事になったわけですね。今では国内外での展覧会をはじめ、ネットや雑誌、テレビさまざまなメディアで活躍され、Instagramのフォロワー数も60万人に迫る勢いです。

田中:投稿することで「いいね」が付いたり付かなかったり、それであからさまに評価がわかるので、SNSには本当に鍛えられましたね。なりゆきで始めたことですが、毎日続けることにも意味があるとわかってきました。新聞と同じで、日々絶え間なく更新されるものはみんな見に来てくれるんです。その期待に応えるためにも、どこにいようが作品投稿だけは毎日ずっと続けています。

東島:毎日続けるというのは、本当にすごいことです。アイディアが枯れたりはしないんですか。

田中:枯渇するということはありませんね。むしろ僕は飽きっぽいので、作っている最中にもう次のものが作りたくなってくる。ふだんからアイディアをリストアップしているので、候補はいくらでもあるんです。リストを見ながら足りない素材をまとめ買いして、つねに作品づくりの準備はしています。材料をそろえてレシピを具現化するという意味では、料理に似ているかもしれませんね。

東島:材料といえば、田中さんの作品にはジオラマ人形が欠かせませんが、なぜ人形を使ったミニチュア写真という表現を選ばれたんでしょうか。

田中:写真を撮るにあたって、被写体が欲しかったんですよね。でもモデルを人に頼むのは恥ずかしいし、面倒もある。そこで、昔から趣味で集めていた鉄道模型用の人形を使おうということになって。するとそのサイズ感なら、ブロッコリーを木に見立てることもできると気づき、世界が広がった。

東島:“見立て"のおもしろさは、田中作品の魅力でもあります。視点(アングル)を変えることで、それまで予想もしなかった世界がそこに現れる。

田中:食器や文房具といった身近な道具も、ミニチュアの視点で眺めてみると、まったく別のものに見える瞬間があるんです。その風景をみなさんと共有するのに、写真という表現はとても有効なんですね。

東島:視点を変えたり、別の何かと組み合わせることで楽しい発見が生まれ、世界が広がる。その発想は、METoA Ginzaのあり方にも共通するところがあります。もともとMEToA Ginzaは、三菱電機の製品や技術を多くの方に知っていただくための施設を作ろうというところからスタートしました。でも当社の主力製品は、今回のFA(ファクトリー・オートメーション)のように一般の方には馴染みのないものも多く、そのまま並べても感動は生まれません。ならば、三菱電機とはまったく異質のもの、たとえばアートや伝統工芸などと掛け合わせることで新しい切り口や価値観を提示し、お客様ご自身が楽しく“見て、触れて、体験できる"場所を目指そうと考えたんです。

田中:楽しくわかりやすく見せるというのは、とても正しいアプローチだと思います。実は僕、教育学部の出身で、大学時代に小学校の教育実習をやっていたんですが、そのときも同じことを考えていました。子どもたちに興味を持ってもらうために、教科書以外の道具を使ってあの手この手で授業を楽しんでもらおうと。アートも同じで、説明しなくてもわかるぐらいの簡単な次元に落とし込んだほうが、お客さんにも伝わりやすい。難解な作品を前にするよりも、はるかに気持ちよくアートに触れられるんです。

東島:今回のイベントでは、そうした私たちの試みに田中さんにもご協力いただきました。METoA Ginzaをご覧になったときの率直なご意見をお聞かせいただけますか。

田中:第一印象をひと言でいうと、銀座にあるおしゃれな空間。とても工業製品を展示する施設には見えなかったので驚くと同時に、そこがおもしろいと感じました。だからこそ、ここで自分の作品を展示できるんだという嬉しさもひとしおでしたね。

東島:田中さんにお願いしたテーマは、ものづくりロボット=FA。ふだんは工場の中にあって、一般の方の目に触れることはありませんが、本当は身近な製品を通じて暮らしと密接につながっているもの。その身近さを田中さんの作品で表現していただきたいと思い、コラボレーションのご提案をさせていただきました。

田中:お話をうかがったとき、僕も最初はピンと来ませんでした。そもそもFAが何のことだかわからない。でもロボットアームという単語を聞いて、直感的にキリンがイメージできたんですよね。ミニチュアじゃなくても、“見立て"を表現できるかもしれない。そんな新しい可能性を感じて、ご依頼を受けさせていただきました。

東島:そうおっしゃっていただけると光栄です。田中さんには、FA機器を製造している当社の名古屋製作所にも足を運んでいただきました。そこで次々にFAの“見立て"アイディアを出されていく様子を見て、とても驚いたのを覚えています。

田中:サーボモータをひと目見て、「これ電車ですね」って。こういうのは直球が大事だと思うんです。現場にはジオラマの人形や木を持参していたので、FA機器と組み合わせたりして、いろんな視点を探ってみました。イベントに展示した作品のアイディアのほとんどは、このときの工場見学で生まれたものです。

東島:展示作品の一つである「ロボティックシティ」には、名古屋製作所の建物や社員も配置していただきました。人形もちゃんと当社の制服を着ているんですよね。あの人形たちは自作なんですか。

田中:元はドイツ製の鉄道模型用ジオラマ人形で、そこに改造や着色を加えています。昔から集めていたのに加え、作品に応じて新しく調達したものもたくさんあるので、人形やミニチュア模型は相当な数になっていますね。

東島:今回はミニチュア作品だけでなく、「メトアキリン」のような等身大の“見立て"にも挑戦していただきました。

田中:小さくしたり視点を変えたりしなくても、別のものに見立てられるという手応えを得られたのは嬉しかったですね。ロボットアームそのものを使うということで、いつものように僕一人ではなく、三菱電機さんやarchiroid+慶応義塾大学松川昌平研究室さんと一緒に作り上げるという方法を採りました。おかげで、できあがった作品を見て自分も感動できるっていう、これまでにない新鮮な驚きを体験することができました。

東島:田中さんに新しい発見をもたらすことができたのだとしたら、とても嬉しく思います。METoA Ginzaのキャッチコピーは、「新しい発見を、三菱電機と一緒に」。今回、田中さんと出会ったことで素敵な“化学反応"が生まれ、私たち三菱電機が世界に誇るFA製品を楽しく見ていただける空間をつくることができました。この出会いが、みなさまにも何らかの発見をもたらし、三菱電機やFA製品を身近に感じるきっかけになればと願っています。本日はありがとうございました。