Wind Lab in Ginza は「風の遊園地」
今回の展示テーマは「風」。目に見えない風を「魅せる」というミッションに、みなさんはどのようなかたちで関わられたのでしょうか。
水村:「風」をテーマに空間全体をデザインするのが私の仕事です。今回はご来場者がさまざまな風と触れ合い、楽しみながら施設を巡る「風の遊園地」というコンセプトを設定しました。
坂口:そのコンセプトを一つひとつのデジタルコンテンツへ落とし込むのが、僕たちの担当です。 METoA 3 (3F)では「風のおどり」のほか、「風をかなでる」「風をととのえる」を手がけています。
高田:それらの動作を実際にプログラムするのが僕の仕事ですが、今回は「風」というむずかしいテーマで何をどこまでできるのかの検証も含めて、企画から参加しました。「風のおどり」では、シロッコファンの特性や機種選定のために、中津川製作所へもお邪魔しています。
本田:私は、中津川製作所でシロッコファンをはじめとした換気送風機を開発しています。中津川で「風のおどり」の映像シミュレーションを見せていただいたときは、正直、本当にできるんだろうかと半信半疑でした。これまでまったく想定していない使い方でしたからね。
そもそも、シロッコファンとはどこに使われる、どういう製品なのでしょうか。
本田:シロッコファンは、水車のような形をした遠心送風機。長いダクト(管)を経由して汚れた空気を外に出し、室内の空気を清浄に保つための装置です。身近なところでは台所のレンジフードファンなどでも使用されています。プロペラ型のファンと比べて、一定方向に風を押し出す力が強いという特長があり、だから今回の展示にも採用されたんだと思います。
高田:三菱電機さんのシロッコファンはラインアップが非常に豊富で、今回の試作だけでも30種類ぐらい試しましたね。
シロッコファンを使えば、簡単にモノを浮かせることができるんですか。
高田:ファン単体ではボールのコントロールまでは無理なので、風をまっすぐ飛ばすためのダクトやノズルを3Dプリンターでいくつも試作して装置を作りました。それぞれのパーツをさまざまな機種のシロッコファンで試し、さらに浮かせるボールの素材やサイズとの組み合わせも検証して…と膨大な実験を繰り返してたどり着いたのが現在の形です。
本田:工場の体育館で実験を見せてもらったところ、想像以上にボールが高くまっすぐに飛んだので驚きました。
高田:それまでは、思う方向に飛んでくれなかったり、逆に高く飛びすぎて天井にぶつかったりと、試行錯誤の連続だったんですよ。
「風のおどり」を舞うのは、お母さんと6人兄弟!?
「風のおどり」には、音楽や映像に合わせてボールが踊ったり、来場者の行動に応じて動きが変化したりと、いろいろな仕掛けが施されています。作品に込められたテーマや想いをお聞かせいただけますか。
水村:「風の遊園地」の入り口で、真っ先にご来場者をお出迎えするのが「風のおどり」です。そのため、みなさまを歓迎するような演出や空間づくりを心がけました。例えば、お客さまが近づいたときにモニターの画面が反応したり、ボールが目線のところまで上がってきたり、という仕掛けもウェルカム演出のひとつ。お客さまとボールが出会い、対話するようなシーンを取り入れることで、親しみやすい導入としています。
坂口:「風の遊園地」ということで楽しさはもちろん、親近感やかわいらしさも表現したいと思い、ボールの役割設定や振り付けにもこだわりました。「風のおどり」では大小7つのボールが踊りを披露するんですが、実は真ん中の大きな球はお母さんで、その周りを6人の子どもたちが囲んでいる様子をイメージしているんです。お母さんの号令で、子どもたちが一生懸命踊ってみなさんを歓迎している、というストーリーです。
水村:同じボールや風量でも、浮かせてみるとどうしても個性が出てしまう。そのバラつき感がまた、子どもたちがお遊戯している愛らしさにもつながるのかなと。
高田:あまりちぐはぐな動作にならないよう、最終的にはバラつきをうち消すよう個別にプログラムを微調整する機能を付けました。また、塗装だと重みで動きが不安定になるため、ボールには静電植毛という技術でまんべんなく色を付けています。職人さんが一個一個丁寧に仕上げてくれたので、発色や毛並みの美しさにも注目していただきたいですね。
風をコントロールするには、絡み合うさまざまな要素を整えていく必要があるんですね。
高田:風そのものは目に見えないので、何かを動かして風を感じさせる手法を採ることになります。どう動かせば自然な風に見えるかを研究するため、落ち葉など風に舞っているものを観察したり、流体力学を一から勉強したりもしました。ただ風の勢いでボールを浮かせるだけでなく、空気抵抗や重力、揺らぎ、回転などさまざまなパラメーターをプログラムに入れて、繊細な風のニュアンスを出すように心がけましたね。
本田:短期間でいろいろなことを勉強されていますね。
研究を重ねていくつも試作品を作って検証して…っていう作業は、まさに私たちが踏んでいるプロセスそのもの。最近は解析技術も進歩していますが、最終的には実際にモノを作って確認して、の繰り返しなんですよね。例えばシロッコファンなら、解析通りに試作して羽根を組み込んでようやく性能が出ても、次は強度や静音性、量産性を考えての試行錯誤が始まる。中津川の場合はずっと風の製品をやってきているので、先人たちが残してくれたものを頼りに少しずつ進化を重ねているという具合です。
高田:その進化も今回驚いたことのひとつです。ファン自体は昔と同じように見えても、わずかな形状や配置の違いで風の質を洗練させている。なんで羽根がこういう形をしているんだろうと、理屈で風を考えるクセが付きました。おかげで扇風機の羽根のホコリとかを見ても、これだけで騒音も風量も変わってくるんだろうなと、こまめに掃除をするようになったり(笑)。
日本には2000通りの風が吹く
今回の企画に携わって、「風」に対する想いに変化はありましたか。
坂口:「風」というテーマをいただいて調べたときに、日本には風を表す言葉が2000以上もあることを知りました。色の名前もそうですが、日本人特有のすごく繊細な感覚ですよね。そうした微妙な風の違いを感じられるよう五感を研ぎ澄ましたり、なんでこの風を自分は気持ちいいと感じたんだろうかってことを意識するようにはなりましたね。
水村:風って身近なようでいて、実はよく知らない。きちんと向き合ってみると、風にはものすごくたくさんの種類があったりする。そのいろんな風の特長をうまく捉えて人に快適なかたちで届けているのが三菱電機さんの製品なんだなってことを、あらためて実感しました。私たちが今回お届けするのは、そうして作られた人工的な風です。でも作られた風であっても、エアコンのように日常的で自然な風として私たちは認識しています。それは快適で当たり前だからこそ、存在を意識することもない。そんな隠れた風の魅力を知るたびにワクワクできたので、その驚きや感動をみなさんにもお伝えしたいという想いは強くありました。
最後に、みなさんがMEToA Ginzaに持つイメージとご来場者へのメッセージをお聞かせください。
本田:METoA Ginzaを訪れていちばん感動したのは、ふだんは見えないところで仕事している風の製品たちが主役になっていたこと。「風のおどり」でも、本来ならカバーの裏に隠れているシロッコファンがきちんとみなさんに顔を見せていて、生みの親としてはとても嬉しく感じました。みなさまにも、展示作品を通していろんな三菱製品に興味を持っていただき、技術的なところも理解してもらえたら素敵ですね。
坂口:METoA Ginzaは三菱製品の魅力を展示やアートのかたちで伝えるだけでなく、その技術や完成に至るまでの工夫もわかりやすく紹介してくれています。ものづくりに携わる人間としては、これほど恵まれた素晴らしい環境はないと感じているので、ぜひ多くの方に体験していただきたいと思います。
高田:三菱電機さんの技術や製品を使った仕掛けを、手軽に楽しく体験できるのがMEToA Ginzaの魅力。それこそ遊園地みたいに大人から子どもまで自由に遊べて、でもそこに使われているのはとんでもなく最先端のテクノロジーだったりする。そのチャレンジングな姿勢が、独特の新しさやワクワク感につながっているんだと思います。今回の企画も、たくさんの方々に楽しんでいただけると嬉しいです。
水村:METoA Ginzaの企画を考えるときに大切にしているのが、「METoA」の頭文字から成る5つの体験ストーリーです。まず、「M」= mentionでお客さまの目を惹く。今回でいえば、「風のおどり」がそれにあたります。次に楽しんでいただく「E」= enjoyがあり、「T」= tell でそれを他の人にも伝えてもらう。「o」はobserve(観察)で、みなさんが感じた魅力を自ら検証したり調べたりして、最後の「A」= action につなげる。誰かを誘って再びMEToA Ginzaを来訪したり、あるいは家電購入時に展示で見た製品を選んでみたりというのも嬉しいアクションのひとつです。実はこんなストーリーが隠れていたんだ、と想像しながらMEToA Ginzaを巡っていただくと、新たな発見があるかもしれません。
本日は、ありがとうございました。